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side さくら  どうにか着替えも終わって、洗面所を出ようとしたんだけど、体中が痛くて思うように動けなかった。 「なぁ、怜…、悪い、肩貸して」  そう言ったけれど、怜に触れられても大丈夫なんだろうか? 「いいですよ。でも、大丈夫ですか?」  怜が心配してくれていた。 「…うん。ゴメンな」  怜、普通に接する事が出来なくって…ゴメンな。お前は何も悪くないんだ。  怜にソファーの所まで連れて行ってもらい、俺はぐったりと座り込んだ。 怜に触れられている間中、体が熱を持ったように熱かった。風呂上がりだからなのか、怪我のせいなのかよくわからないけれど――。  一息ついてから、ソファーの上で体の向きを変えようと思い手を付いた。 「イテッ」顔の前に両手を出してみると、ネクタイで縛られていた跡から血が滲み出ていた。 「今、薬持ってきますね」  怜がそう言ってから、救急箱を持って来て、ソファーの前に腰を降ろした。それから、俺の手を取ると、消毒液の付いた綿で傷口から出ている血を拭こうとしていた。  だけど、綿が血に触れた瞬間、怜は突然動きを止めた。そして、急に表情を無くし、俺の手首を握った手を自分の口元に近づけていった。視線は獣のように鋭かった。  唇が傷口に触れそうになった時、怜が我に返ったように頭を振った。 俺は体が硬直してしまったかのように、声も出せず、動くこともできずにいた。怜には超能力のような力があるのかも知れない――だって、怜は吸血鬼だから。  吸血鬼の本能だから、俺の血を見て無意識に行動してしまったんだ。そうだよ、怜は人間じゃないんだ。俺よりずっと長く生きていて、そしてこれからも生き続ける…。いつか俺が死んでしまっても…。俺の知らない誰かと過ごしていくんだ。元々俺たちの共同生活なんて、医者に見てもらうまでだって決めていたんだから…。 「ありがとう…怜」  怜が薬をつけ終わった俺の手首にガーゼを乗せ、それから包帯を巻いてくれた。怜って、本当に器用だな…。最初の頃とは大違いだ。そう思った瞬間、鼻の奥がツンと痛くなった。 「どういたしまして。あの、私、ちょっと寝室を片付けて来ますから」  救急箱を片手に持った怜が、そう言ってそそくさと寝室に行ってしまった。  怜の背中がぼやけて見えた。ずっと、自分の気持ちに気が付かないようにしていたけど……、もしかしたら俺、怜の一番身近な存在になりたいと思ってるのかもしれない。 あいつが、いつでも、俺に優しくしてくれるから。俺の大好きだった犬の怜と同じで、俺の事決して傷つけるようなことをしないから。側にいて、誰よりも安心する相手だから…・。  自分の気持ちを認めてしまうのが怖かった。  -怜が好きなんだ-  頭の中にその言葉が浮かんだ。  -気付かないほうが良かったのに-  もう一人の自分が呟いていた。  -バカだなぁ、好きになったって、どうしようもないだろ?-  まさか、本気で男を好きになってしまうなんて…それも、何で、よりによって怜なんだよ?あいつは人間じゃないんだぞ。普通に恋愛出来るわけ無いじゃないか-  夢を叶える為に、ずっと1人で頑張ってきた。どんな事があっても、夢の為なら堪えられた。 だけど、怜と暮らすようになって、怜の包み込むような優しさや、両親でさえ与えてくれなかった心の安らぎを与えてくたから…怜が俺を甘やかしてくれるから…あいつが、俺を大切に扱ってくれるから…。  お金の為なら、好きでもない奴に抱かれたって平気だったはずなのに…。  怜が誰と寝たって、関係無いって思ってたのに…。

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