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side 怜
「もしかして、王子様も、ついに王様になるのかい?」
そう言われた私は、おばあちゃまの言ってる意味がわからず、視線でおじいさんに助けを求めてしまいました。おばあちゃまは、時々不思議な事を言うのです。
「ばあさんが、この間から、さくらさんのお腹に赤ちゃんがいるんじゃないかって言ってるんだよ」
「え…」
さくちゃんが聞いたら、笑い出すでしょうか? それとも、怒ってしまうでしょうか…。
私とさくちゃんは、夫婦の振りをしているのですから、周りの人にそのように思われても仕方ない事でしょう…。でも、実際にはそんな事、絶対に有り得ません…私たちは夫婦でもなければ、子供の出来るような行為もしていません。いえ、それ以前に、私もさくちゃんも男性なのですから…。
「残念ですけど、違います」
嘘をついているせいなのでしょうか、心がチクチク痛みました。
「何だ、そうなのかい。本当に残念だねぇ。まぁ、でも焦らなくても、じきに授かるものだから。今は、2人きりの時間を大切にしなさいよ」
おばあちゃまが、慰めるようにそう言ってくれました。
「はい…」
優しいお心遣い、ありがとうございます。でも、私たちには、子供は出来ないんです。私たちは、恋人でも、夫婦でもないのです…。
嘘をついていて、ごめんなさい。
心の中で、おじいさまとおばあちゃまに謝りました。
買い物も済ませると、急いでマンションに戻りました。
鍵を開けて、玄関の中に入り取り合えず荷物を置くと、靴を脱ぎました。それからもう一度荷物を手に持ち、居間の方に向って歩いていきました。
「怜、お帰り。買い物に行ってたの?」
部屋からさくちゃんの声が聞えて来ました。
「えぇ、明日は家でゆっくりしようかと思って、今日のうちに買い物を済ませてきたんです」
「そっか…」
「さくちゃん! どうしたんですか」
顔を上げると、さくちゃんが床に座って、血だらけの包帯をはずしている姿が見えました。さっきは血が止まっていたはずなのに…。
私は慌てて荷物を床に置いて、さくちゃんの近くに走り寄りました。さくちゃんのそばに言った途端、さくちゃんの血の匂いがして、眩暈がしました。
「…痛くて目が覚めたら、こんなになってたんだ」
「今すぐ、取り替えますから」
そう言ってさくちゃんの手を取りましたが、気が遠くなりそうな感じがして、ちゃんと手当てが出来るのかどうか、自分でも不安でした。
「良いよ…自分でやるから。怜は、買い物してきたもの片付けてて」
「…そうですか?」
申し訳なかったのですが、さくちゃんの言葉に従うことにしました。さくちゃんの血の匂いは、とても魅惑的で危険すぎます。私の理性を根こそぎ奪い取ってしまいそうです。
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