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side 怜  寝室の準備が終わると、居間に戻りました。  ソファーに横になっているさくちゃんの横顔を見ると、窓の外を見つめたまま、じっとしていました。目元が潤んでいるような気がするのは、辛い気持ちを克服出来ていない証拠でしょう…。  私は出来るだけ普段通りでいようと思い、さくちゃんの涙に、気が付いていない振りをしました。 「さくちゃん? まだ起きてますか?」 「ん…起きてるよ」 「お腹は空いてないですか?」 「うん…。空いてない。ありがとな」  朝食べてから、かなり時間が経っているのに、食欲も無いようです。 心配ですが、今はとにかく、休養させえてあげたいと思いました。  体調が良くなったら、あの男からは、私が必ず守りますと伝えましょう。そうすれば少しずつ、元気なさくちゃんに戻ってくれるのでは無いでしょうか――。  さくちゃんがジッと見つめている先を見ると、ベランダで洗濯物が揺れていました。 そうでした…洗濯物を取り込むのを忘れていました。私は急いで洗濯物を取り込み、それらをカーペットの上に置きました。 「さくちゃん、ベッドに移ったほうが良いですよ。連れて行ってあげますから」 「だけど…」  さくちゃんが答えを渋っていました。あの男に抱かれたベッドに行くのは、抵抗があるのかもしれません。でも、ソファーは体をゆっくり休めるには狭すぎます。 「こんな所じゃ、ゆっくり休めませんよ」  私はさくちゃんを抱き上げようとしました。私と同じ位の体重のさくちゃんを抱き上げられるかはわかりませんでしたが…。 「ま…まてよ怜。無理すんなよ」  そう言いながらさくちゃんが、私の腕から逃げてしまいました。  さくちゃんをどうやってベッドまで連れて行ったら良いのか迷っていると、さくちゃんが急に私の手を掴みました。 「わかったよ…ベッドに行くから」  さくちゃんは、私が困っている事に気が付いたようです。  体を支えながら、さくちゃんを寝室に連れて行きました。ほんの少しさくちゃんの体が熱いような気がします。熱を出してしまったのでしょうか…。後で、体温計を持ってきましょう。 「わっ」  寝室に入ったさくちゃんは、驚いたような声を出しました。 そして、今にも泣き出しそうな顔をして、ベッドに潜り込んでしまいました。 ゆっくりお休みください、さくらちゃん。早くもとの元気なさくちゃんに戻ってくれますように…。 「お休みなさい」 「ありがとう…」  ベッドからさくちゃんの小さな声が聞えました。

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