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side 怜
しばらくしてから、寝室の様子を覗いてみました。さくちゃんが熟睡しているようなので、キャンドルは消しておきました。
その後さくちゃんは、ずっと眠ったままでした。夕食も一応作ってはみたものの、起こすのが可哀想に思えたので、そのまま寝かせておいてあげました。
夜中に、お腹を空かせて起きていらっしゃるかもしれませんので、サンドイッチを作って、冷蔵庫に入れておきました。
考えてみたら、私も昨日の夜は殆ど眠っていなかったのです。どうりで体が辛かったわけです。いつもよりも早い時間なのですが、もう寝ることにしましょう。
さくちゃんが熟睡出来ないといけないので、私は、以前のようにソファーで眠る事にしました。洋服を着込んで寝れば、上掛一枚でもなんとか大丈夫でしょう…。
眠る前に、掛け布団を取りに寝室に入りました。
サイドテーブルの上のライトを点けて、ベッドの横に座り、さくちゃんの顔を覗き込みました。
さくちゃんは、先ほどと同じように、ぐっすり眠っているようでした。
私はさくちゃんの髪を軽く撫ぜてから、サッと立ち上がりました。居間に行く前に、もう一度、眠っているその顔を見つめました。
その時、瞼がピクリと動き、さくちゃんがゆっくりと目を開けました。
「怜?」
さくちゃんが2~3回瞬きをしてから、私を見つめました。
「はい…」
「今何時?」
「夜の10時ですよ」
「そっか…よく寝てたんだな」
「何か食べませんか?」
「ん? いらない。ちょっと、トイレ行ってくる」
さくちゃんがゆっくり起き上がり、ベッドから抜け出しました。
「さくちゃん、掴まってください」
体を支えようとすると、さくちゃんが柔らかい口調で断わりました。
「もう平気。自分で歩けるから」
さくちゃんがトイレに行っている間に、重ね着するための服と、掛け布団を出して、居間に持っていき、ソファーの横に置きました。
「あれ? 怜…そこで寝るの?」
見上げてみると、トイレから戻ってきたさくちゃんが、不安そうな顔をして私を見ていました。
「はい…。さくちゃんが熟睡出来ないといけないですから…」
私がそう言った途端、さくちゃんは俯いてしまいました。
「大丈夫だから…」
さくちゃんが呟きました。
「でも…」
「怜なら大丈夫だから…」
「ですが、さくちゃん」
「ダメ。…なぁ、怜、ベッドで寝てくれよ…不安で壊れそうになる」
さくちゃんのその言葉を聞いて、私はとても心配になりました。まだ、精神状態がかなり不安定なようです。私が一緒に寝ることで、安心できるのなら、力になって差し上げましょう。
「わかりました」
さくちゃんが私の言葉を聞くと、ホッとしたような顔をして、私の手を取りました。
「怜…」
手を握られた途端、胸の鼓動が早まりました。
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