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side 怜
正直に言って、少し前から、さくちゃんに対して、友人や知人に対する感情以上のものを持っていました。ですが私は、この感情を、親子の間にある無償の愛のようなものだと思い込んでいたのです。
さくちゃんに手を握られて、胸が高鳴ってしまうなんて…。男性に対して自分がこのように特別な想いを持ったことが無かったので、自分でも、どうしたら良いのかわかりませんでした。
ですが、傷ついているさくちゃんを前に、そんな感情を持ってしまうのは許されない事のように思われます。 とにかく、今、私がすべき事は、さくちゃんを支えてあげる事です。余計な事を考えている場合ではないのです…。
「何ですか? さくちゃん」
「ううん、何でもない。ありがとう」
さくちゃんが握っていた手に力を込めました。私もそれに答えるように、さくちゃんの手を握り返します。
「では、すぐ行きますので、先にベッドに入っていて下さい」
「うん」
手を離すと、さくちゃんが寝室に入っていきました。
私も寝る準備をして、さくちゃんのベッドに潜り込みました。私の方に背中を向けていたさくちゃんが、こちら側を向きました。
「おやすみ」
私の顔を見てから、すぐに俯いてそう言いました。
「お休みなさい、さくちゃん」
「あのな…」
俯いたまま、さくちゃんが思い詰めたように口を開きました。
「はい」
「ホントに色々ありがとう」
「どういたしまして。私は、さくちゃんに元気になって頂きたいんです。元気なさくちゃんが大好きですから」
大好きです、さくちゃん…。でも、特別な思いを込めないように言いました。私にそんな事を言われたら、きっと困ってしまいますよね…。
髪を撫ぜていた手を離すと、眠るために、さくちゃんに背中を向けようとしました。すると、さくちゃんが、私が動くのを阻止して、私の胸に顔を埋めてきました。抱きしめてしまいたい…抱きしめて、そして…
「ごめん。今だけこうしてて…頼む」
「わかりました」
溢れ出してしまいそうなこの思い…。でも、今さくちゃんの求めているのは、心が安らげる場なのです。私の思いを伝えて、さくちゃんを悩ませてしまう訳にはいきません。
「ごめんな…」
謝らないで下さい。私はあなたの為に、こうしてあげたいのです…・。
堪えきれずに、さくちゃんの体に腕を回して抱きしめようとして、手を止めました。さくちゃんが震えています。やはり誰かに触れられるのが恐いのでしょう。
さくちゃんの腕に触れていた手を離そうとすると、私の手に、さくちゃんの手が重なりました。
「離さないで…」
小さな声が聞えました。
「わかりましたよ。さくちゃん」
震える体を抱きしめました。背中をトントンと叩いてあげると、さくちゃんのすすり泣く声が聞えてきました。
「泣かないで下さい。何があっても、私が守ってさしあげますから…」
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