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73 saku
side さくら
何時間眠ったのだろう? 暖かい手が俺の頭を撫ぜているのがわかった。
「怜?」
目を開けると、怜がベッドのそばにいた。きっと俺の様子を見に来てくれたんだろう。
「今何時?」
「夜の10時ですよ」
「そっか…よく寝てたんだな…」
夢も見ずにぐっすり眠れていたけれど、体のダルさが全然抜けていない感じだった。
「何か食べませんか?」
「ん? いらない。ちょっとトイレ行ってくる」
あちこちに痛みが残っていた。でも、どうにか体を動かす事は出来そうだ。怜が居なくなったら、どんなに辛くても自分でやらなきゃならないんだから…。
少しフラつきながらも、俺は自分で立ち上がった。
「さくちゃん、掴まってください」
心配そうに怜が腕を伸ばしてきた。
「もう平気。自分で歩けるから」
1人でやらなくては、という気持ちと、怜に頼ってしまいたい気持ちが葛藤していた。
もし今、怜が居なくなったら…そんな事を考えると、ますます気持ちが混乱してくる。俺、そうとうおかしくなってるのかな…?
「あれ?怜…そこで寝るの?」
居間に戻ると、怜がソファーで寝る準備をしていた。
「はい…。さくちゃんが熟睡出来ないといけないですから…」
「大丈夫だから…」
傍にいてくれよ、怜。お前が俺から離れようとしてるんじゃないか? って考えるだけで、オカシクなってしまいそうだ。
「怜なら大丈夫だから…」
「ですが、さくちゃん…」
「ダメ。…なぁ、怜、ベッドで寝てくれよ…不安で壊れそうになる」
気持ちが抑えられない。なぁ、怜、俺を置いて行かないで…。
「わかりました」
しょうがないですね…って顔をして、怜がそう言った。俺はホッとして、怜の手を握っていた。怜が力強くその手を握り返してくれて、胸が熱くなった。
「怜…」
傍に居るだけじゃ嫌だ。抱きしめて欲しい…俺が不安じゃなくなるように。
「はい、何ですか? さくちゃん」
欲しい笑顔がすぐそこにある…。でも、ダメだ、怜は俺のものじゃない。思い出せ…この怜に対する想いは、幻覚なんだぞ…。
「ううん…何でもない。ありがとう」
「では、すぐ行きますので、先にベッドに入っていて下さい」
「うん」
しばらくすると、怜がベッドに入ってきた。少し冷えた体を背中に感じて、体が熱くなるような思いがした。
「おやすみ」
怜の方に体を向けてから、そう言った。怜の顔を見て安心したかった。優しい笑顔を向けて欲しかった。
「お休みなさい、さくちゃん」
「あのな…」
自分が何を言おうとしているのか気が付き、慌てて言葉を止めた。抑えようと思っても、すぐに溢れそうになってしまう…。
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