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side 怜
その後2人でソファーに並んで腰掛けました。
私はすぐにスマホで水沼先生に電話をかけてみました。今度はいらっしゃると良いのですが――。
隣ではさくちゃんが私の手を握り、私に寄りかかりながら目を瞑っていました。
時々、悪い夢でも見ているかのように、眉間にシワを寄せ、悲しい顔をしていました。もしかしたら、傷口が痛むのかもしれません…。それとも、私が血を頂いてしまったので、体が辛いのでしょうか…。
『はい、水沼です』
電話の向こうから、女性の穏やかな声が聞えて来ました。先生の奥様のようです。
「おはようございます。雨宮です」
『まぁ、遙さんね』
「はい。あの、先生はお戻りになられたでしょうか?」
『ごめんなさいね、まだなのよ。でも、連絡があったから、遙さんの事話してみたの。ちゃんと検査をしないとわからないけれど、やっぱり、人間の方に先に何かの症状が現われるらしいのね。例えば、あちこちに痣が出てくるとか、皮膚が爛れてくるとか、傷が出来ると治りにくいとか、歯が抜けてしまうとか…』
あぁ…やっぱり…。そう思うと、しばらく言葉が出ませんでした。
『遙さん、どうしたの? もしかして、もう何か症状が出てしまったとか?』
「…はい、そうなんです…。彼が怪我をしたのですが、血がなかなか止まらなくて。大怪我ではないのです」
さくちゃんが目を開けて、不安そうに私の顔を見つめました。私は繋いでいる手に力を込め軽く頷きました。
『まぁ…』
「それから、どうやら私の方にも…」
『それはどんな症状なの?』
奥様が少し慌てたように聞きました。
「それが、彼の血の匂いを嗅ぐと、意識が薄れてしまって…。それで今日、再び彼の血を吸ってしまったんです…」
『そう…それは大変だわ。水沼は来週には戻ると言っていたから。早めにこちらに来ていた方が良いかも知れないわね。2人だけで居ると危険よ。こられるようだったら、すぐにでもいらっしゃい』
先生の奥様はそう言いました。もうのんびりはしていられません――。
「はい…。彼と相談して、なるべく早くそちらに行けるようにします。また、連絡します…」
『わかりました。私も水沼にそう伝えておきます。』
水沼先生の奥様にお礼を言って、電話を切りました。
とうとうここを離れる時が来たようです。治療して頂いてこちらに戻ってきたら、さくちゃんとの生活は終わってしまうのです――。
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