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side さくら 「さくちゃん…」 「何だって?」 「来週には、先生が戻られるようです。私たちは、もう2人だけで居るのは危ないので、先生のお宅に行くようにしたいと思います」  私がそう言うと、さくちゃんは眉間に皺をよせました。 「医者って、どこに住んでんだよ?」 「小樽です…」 「…小樽って…」 「北海道の小樽市です」 「それじゃ…しばらく店休まなきゃなんねーのかよ?」 「はい。そうなります…」 「何でこんな事になっちまったんだよ…店、出なかったら、金もらえないんだぞ?」  さくちゃんが、怒った顔をして私を睨んでいます。 でも、相変わらず、私の手をギュッと握りしめいているのは、不安なせいなのでしょう…。 「申しわけありません。きっと、先生に診ていただけば、治るはずです…。少しの間、お店を休んで下さい。その間のお給料は、私がお支払いします…」 「ふざけんなよ、なんだよそれ?」 「…治るまでの間、私がさくらちゃんのお客様になります。私の言うことを聞いて下さいね」 「お前が俺の客?」 「そうです。どうでしょうか?」  さくちゃんが表情を和らげ、安心したように私の目を見つめました。 「わかった」  繋いでいた手を離してから、さくちゃんが私の口元に手を当てました。 「わかったけど、血を吸うのと、セックスはナシだからな」  そう言って笑ったさくちゃんは、元気な時にする少し意地悪な表情をしていたので、私はなんだか嬉しくなりました。 「当たり前です」  さくちゃんの鼻の頭を人差し指でチョンと押すと、さくちゃんがプイッと横を向きました。 いつもよりも可愛らしい、さくちゃんの反応だったのが新鮮でした。 「バーカ」横を向いたままさくちゃんが言いました。 「お客様にそんな態度しないで下さい」 「まだ、金もらってないし」 「そうでしたね」 「…でも、当然だよな。お前が俺の血を吸ったりするからだよ」 「そうですね…申し訳ありません」 「…そうだよ…」  その後、さくちゃんが呟くように言いました。 「店に連絡しなきゃ…。戻って来たら、仕事が無かったりしてな…。それよかその前に、くたばってたりして…」  さくちゃんは、その後しばらく私に文句を言っていました。でも、落ち込んでいる感じではなかったので、私も少し気持ちが軽くなりました。  元気になってきたのは、お医者様に診ていただける事がわかったからなのでしょう。 私はもう一度さくちゃんの手を握りしめながら、さくちゃんの投げかける言葉を聞いていました。  さくちゃんのお客様になる…これは、私がさくちゃんにしてあげられしたる最後の仕事になるのでしょう――。

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