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84 rei & saku

side 怜  ソファーの横のテーブルに置いてある、ノートパソコンを開いて、飛行機の空席状況を確かめておきました。平日なので、どの時間帯も大丈夫そうです。さくちゃんの言っていたように、さくちゃんが起きた時に体調が良くなっていれば、すぐに予約してしまいましょう。  パソコンを閉じると、ソファーにぐったりと身体をもたれ掛けました。  考えてみると、しばらくマンションに帰って来ないわけです。今のうちに掃除をしたり、台所の整理をしてしまいましょう。 私がここに戻ってくるかはわかりませんでしたが、お世話になったこの部屋を奇麗にしておきたい――。  これから先の事は、先生に診ていただいた後に考えればいいことです。もしかしたら、さくちゃんに対して抱いているこの気持ちも、変わってしまうのかも知れないですから…。  お風呂場、トイレ、洗面所、そして一番私の好きなキッチン、いつもより念入りに掃除をすませてから、ソファーに座り、一息つきました。  さくちゃんは熟睡出来たでしょうか? さっきの吐き気は何だったのでしょう? 手首の傷は、どうなっているでしょうか?   それから…  さくちゃんの事を考えているうちに、意識が薄れて行きました。何だかとても疲れました。私はいつの間にか、ソファーで眠り込んでしまいました。 ■□■□■□■ side さくら  怜が寝室を出て行くと、俺はすぐに眠りについた。  そして、とりとめもない夢を見た――。  目を覚ますと、そこは俺の部屋ではなく、どこかのでかい屋敷の一室のようだった。  真っ白くてだだっ広い室内には、ベッド以外何も無かった。見回してみると、その部屋は他の部屋とつながっているようで、壁にはいくつもの扉が並んでいた。 俺は怜の姿を求め、扉を開けていき、全ての部屋を捜し回った。浴室もトイレも捜した。だけど、怜はどこにも居なかった。  最後に1番大きな扉を開けると、長い廊下に出た。廊下の両側にはたくさんのドアが並んでいた。  怜が何も言わずに、俺の前から居なくなってしまったのではないかと思うと、不安で仕方がなく、俺は怜を捜して廊下の両側に並ぶドアを次々と開けていった。  すると何故か、どの部屋にも、俺の知っている人たちが居て、皆それぞれ何かの絵を描いていた。絵を描くのに夢中になっている人達に、俺は必死になって聞いて回った。 「怜はどこ?」  俺の質問に、皆が同じように答えた。 「怜って誰?」  7つめのドアを開けると、そこには俺の働いている店のママが居た。 「ねぇ、ママ、怜どこに居るかしらない?」 「怜って…誰?」 「あ…えっと、遙さん。雨宮遙さんだよ」 「雨宮遙さん…そんな人いたかしら? 覚えてないけど…」  ママの描いている絵を見てみると、そこには怜の横顔が描いてあった。綺麗に整った横顔。 だけど、その目は獲物を探すような鋭い光を発していて、口の端からは赤い血が細く流れていた。

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