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side さくら
唇を離してから、寝室に戻り、掛け布団を引きずって来た。
ソファーに座り、怜に寄りかかるようにして、布団を被った。ここで寝よう。怜の隣で。
隣に怜が居る…それだけで安心して、眠くなってきた。
ウトウトし始めると、耳元で怜の声がした。
「さくらさん…」
さくらさんって呼んでる?
そう思って目を開けてみると、怜が俺の事を見つめていた。でも、焦点が定まっていないような気がする…大丈夫だろうか?
もしかして…
「怜…正気? 血が欲しいの?」
少し後ずさりしながら聞いてみた。
「血? 何の事でしょう…? 私が欲しいのは、さくらさんからの口付けです」
逃げようとする俺の傍に来て、顔を寄せてきた。
「え?」
「私の言うことを聞いてくれるんですよね?」
怜は、俺を見つめてはいなかった。
「怜? 寝惚けてるの?」
パンパンと怜の頬を軽く叩いてみた。 すると、怜が俺の手をギュッ掴み、甘い声でもう一度囁いた。
「キス…してください」
俺はもう、抵抗出来なかった。怜とキスしたかったから… 止められない感情が溢れ出てしまったから。
「怜…」
怜の唇に自分の唇を近づけた。怜が俺の身体に両腕を回し、優しく抱きしめてくれた。
唇が触れ合うと、すぐに、熱い舌が唇を割って侵入してきた。俺は夢中で怜の舌を追いかけていた。
頭の中が真っ白になって、体中の力が抜けてきた。怜と俺は、抱き合いながらソファーにたおれ込んだ。
抱いて…怜…そう言おうと思い、唇を離して怜の顔を見た。その途端、怜の身体がピクリと震えた。
「さ…さくちゃん、どうしたんですか?」
怜が慌てたようにそう言った。それから、抱きしめていた腕を離し、困惑した表情で俺を見ていた。
やっぱり…お前の意思じゃなかったんだ? 悲しくて涙が出てきた。
「怜…お前が、キスしてって…」
泣きながらそう言ったら、怜が俺の身体を突き放した。
「ごめんなさい、さくちゃん。寝室に行ってて下さい…」
怜が自分の身体をギュッと抱きしめながら、俯いていた。
震えている怜を見て、また血が欲しいくなったんだと思った。キスしたかったんじゃないんだ。そう思ったら余計悲しくなった。
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