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side 怜
さくちゃんが泣きながら、私のことを見つめていました。
どうやら、私は傷ついているさくちゃんを、さらに悲しませてしまったようです。
無意識のうちにさくちゃんの血を吸おうとしていたのでしょうか…。自分で自分が恐くなり、さくちゃんの身体から手を離し、さくちゃんに手を出さないように、自分の身体を抱きしめました。
「ごめんなさい、さくちゃん。寝室に行ってて下さい…」
私は、さくちゃんの視線を避けて俯きました。早く…離れてください…。
「怜のアホ!」
さくちゃんの声がした後、寝室のドアがパタンと閉まる音が聞こえました。
深く溜息をついて、ソファーに手を付くと、そこに、ベッドでいつも使っている羽毛布団がある事に気が付きました。
もしかしたら、さくちゃんは眠れなくてここに来たのかも知れません。可哀想な事をしてしまいました。これでは、ますます眠れないかも知れません…。
掛け布団をたたんで手に持つと、寝室の前に行ってドアをノックしました。
「さくちゃん…入っても良いですか?」
返事はありませんでしたが、とにかく掛け布団だけでも置いて行こうと思い、ドアを開けました。
さくちゃんは、ベッドの上で膝を抱えて座って居ました。私が部屋に入ると、腕の間に沈めていた顔を上げて、冷たい視線を向けました。
「さくちゃん…」
「何だよ」
「すみませんでした…」
「お前、俺に謝ってばかりじゃないか…」
私に向けていた視線をそらし、さくちゃんが悲しそうにそう言いました。
「そうですね…私が全て悪いんです。こんなに、さくちゃんを苦しめてしまって」
「まったく、酷いよ…怜」
「すみません」
「なぁ、その言葉は、もう良いよ、わかったから…」
「はい、あの、これ」
私は掛け布団をベッドに置いてから、そこを離れようとしました。
ドアの近くまで行くと、さくちゃんが私の事を呼びました。
「怜…」
「なんですか?」
振り返えると、さくちゃんが、何かを訴えかけるような眼差しで、 私のことを見つめていました。
「お前、今、正気? それとも血に餓えてんの?」
「多分、正気だと思います…」
「そうなんだ…じゃあ、何であんな事言ったんだよ?」
「あんな事?」
「俺にキスして欲しいって」
「私が…」
無意識にさくちゃんを求めてしまっていた自分に驚きました。血を求めるだけではなく、さくちゃん自身を求めてしまっているのです…。
「そうだよ」
さくちゃんが視線を逸らしてから、溜息をつきました。
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