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side さくら
その日の夜、怜が一緒のベッドに寝るのは危険だから、自分はソファーで寝るって言った。
俺は、これが最後になるような気がしたから、怜の体温を隣で感じて眠りたいと思った。
だけど、それを言い出すことが出来なかった。正気を失った状態の怜が危険だって事は、俺自身が身をもって感じたことだったから――。
「眠るまでそばに居ましょうか?」
たぶん、俺が不安そうな顔をしていたんだろう、怜がベッドの横で俺にそう言ってくれた。
「うん、頼むわ…」
俺が正直に答えると、怜が嬉しそうな笑顔を浮かべて頷いた。
その笑顔、心臓に悪いよな――俺は心の中で呟いた。
それから、俺がベッドから手を出すと、怜はその手を握ってくれた。怜の優しさを感じられてとても幸せな気持ちになった。
でも…怜が近くにいてくれているのに、俺はなかなか眠れなかった。もしかしたら、怜の事が大好きなんだって自覚したからなのかも知れない…。いや、昼間も寝ていたからって事もあるだろう。
それに、明日の事を考えると、ワクワクドキドキするような感じなんだ…まるで遠足の前日の子供みたいじゃないか…。我ながらのん気なものだ――。
とにかく、自分では止めることが出来ない、様々な感情に振り回されているような気がしてならなかった。
でもまぁ…そんな感情とも、もうすぐオサラバ出来るんだ。
なかなか眠れなかったけど、怜にずっと居てもらうのが悪いような気がしてきて、寝ているふりをすることにした。
しばらくすると、俺が本当に眠ていると思ったんだろう、怜が部屋を出て行くのがわかった。
その後もずっと眠れないでいたら、再び不安な気持ちが、頭の中に湧き上がってきてしまった。
もう、そんな感情に振り回されたくない…そう思った俺は、迷わず掛け布団を持つと居間に向かい、布団に包まってソファーの前に座った。それからしばらくの間、怜の寝顔を見つめていた。
「さくちゃん…」
怜の唇が微かに開いて、小さな声が聞こえた。寝言なんだと思う――でも、俺は名前を呼んでもらえたことが嬉しくて、気づくと怜の唇にキスをしていた。
「怜…」
唇を離した後、小さな声で怜を呼んだ。
手首の傷が微かに疼いたけれど、出血することはなかった。
その後、怜の寝息を聞いているうちに、だんだん眠くなってきた。 ここで寝るのは、危険なんだってわかっているけど、怜のそばに居たかった。明日の朝、無事に起きられるのだろうか?
それとも、怜に血を吸われてしまっているだろうか…。
もうそんな事、もうどうでもいいや。
だって、俺、怜が好きなんだ…。少しでも長く、怜のそばに居たい――。
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