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side さくら  出発する時間になったので、2人そろって部屋を出た。 着替えが入った荷物それぞれ持ち、空港行きのバス停に向かった。    時間通りに来たバスに乗り込み、席についてから、ボンヤリと朝食の時の事を思い出していた。  利一が警察に捕まったニュースをやっていたな…。レイプまがいの行為を常習的にやってたみたいだから、いいかげん親の力も通用しなくなったんじゃないだろうか。 ホッとしたけれど、また大金を使って人を動かして、普通の生活に戻ってしまいそうな気もするのだ。  バカな俺は、怜に「あいつから守ってくれるんだろ?」なんて聞いてしまった。 その時の怜の顔を思い出すと、切なくなる。すごく困った顔をしていた…。  俺の気持ちの中に、これからもずっとそばにいて欲しいという思いがあったのを、怜は感じとってしまったのかもしれない。俺に何て言ったら良いんだろう…って顔だった。  だから俺は、怜を縛り付けてしまわないように「どこに居ても、かけつけてくれるよな?」なんて続けた。 優しい怜は、相変わらず困った顔のままだったけど、「もちろん」って答えてくれた。  そんなの無理だって事はわかっているんだ。それでも、怜がそう言ってくれたのが嬉しかった。  バスに乗ってすぐに、怜は目を閉じてしまって、空港に着くまで目を開けなかった。 だけど、眠ってないみたいだった…。俺が隣にいるから、気を抜けなかったんだろう。  飛行機の座席は、通路側の座席に前後して座った。怜が、そうやって座席指定したようだ。バスに乗るときも、違う席に座ろうとしていた。たまたま並んで座る所しか空いていなかったから、隣同士で座ったけど…。  怜が俺の隣に座らないようにしている理由はちゃんとわかっている。だけど本当に避けられているような気がしてしまい、段々辛くなってくる。  あ、この気持ちも血を吸われたせいに違いない――。こんな女々しい俺は、俺じゃない。  俺の隣には、中年の夫婦が座った。その夫婦の旦那は窓側の席に座って、一言二言奥さんに声をかけると、すぐに、昼寝を始めてしまった。  怜の隣は、若い女性の2人連れだった。  その女たちは、最初から怜に馴れ馴れしく話し掛けていた。  後ろから聞こえてくる楽しそうな声に、俺はすごくイライラしていた。自分でも面倒な感情だって思う。こんな気持ち、自分のじゃないんだと思う。自分も嫌だったけど、怜が誰かと楽しそうに話しているのは、もっと嫌だった。  だから、なるべく後ろの会話が聞こえないようにと思い、音楽を聞きはじめた。

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