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side さくら  飛行機が到着するまで、俺は怜の隣でぐっすり眠っていた。 「着きましたよ、さくちゃん」 「ん…もう着いた? あー、いい気持ちで眠れたよ。ありがとう…怜…」  俺が「兄さん」と付け加えると、怜が照れたように笑った。 「いいんですよ、さくちゃん」  手荷物を降ろしてから、途中で席を変わってくれたおばさんにお礼を言った。それから、 俺は怜と一緒に飛行機から降りるための列に並んだ。  空港で預けた荷物が出てくるのを待っていると、さっき怜の隣にいた女性達が怜を見つけて近寄ってきた。 「弟さんの具合はいかがですか?」  綺麗で少し年上に見える女性が俺に視線を送ってから、怜に話しかけた。 「有難うございます、もう大丈夫ですよ」  怜がいつもの優しい笑顔で、そう答えていた。彼女達は怜の笑顔に釘付けになってる…。 俺は無意識に怜のジャケットの裾を掴んで、怜の後ろに下がった。 「それは良かったですね」 「えぇ。ご心配おかけしました」 『そいつらは俺の心配をしているんじゃないよ…。怜と話したいだけなんだから――』  俺は丁寧に対応する怜の背中を見ながら、心の中で文句を言った。 「えっと…あの、もし、ご予定が空いていたら、一緒に観光出来たら良いなって思ってるんですけど…明日とかでも良いですし。どちらに行かれるのかなって――」  女性たちが遠慮がちに聞いてきた。遠慮がちなんだけどグイグイ来る感じで、彼女たちの明るい声を聞いてるうちに、俺はまた気分が悪くなってきてしまった。 「お誘いは嬉しいですが、私たちは観光に来たのではないので、申し訳ありませんが、ご一緒出来そうもありません」  怜がそう答えると、ニコニコしていた女性たちの顔から笑顔が消えた。 「そうなんですか。残念です…」  2人の女性のうち、怜が好きそうな色っぽい女がそう言った。 『きっと彼女の血は美味しいんだろうね。断っちゃって良いのかよ?』  断ってくれよ、俺だけのことを見て、俺の怜で居て欲しい――。そう思ってるはずなのに、心のどこかで、ひねくれた俺が虚勢を張っていた。 「すみません、弟は体調が良くないんです。ここへは静養に来たものですから…」 「まぁ、そうだったんですか…」 「はい」 「わかりました。ごめんなさい、無理にお誘いして。それじゃ、お大事になさって下さいね」 「有難うございます」  怜がそう言うと、女性たちはそそくさと居なくなってしまった。  女性たちが去ると、俺はホッとして気持ちが軽くなった。 あぁ、良かった…。怜は俺だけのものなんだそ――。  気づくと俺はそう考えていた。何だか、相当やられちゃっているのかも知れないな――。  流れてくる荷物の中から自分たちのバッグを見つけ、それから出口に向かった。 出口のゲートをくぐると、怜が誰かに向かって会釈していた。きっと水沼って医者の奥さんだろう。 俺はこれからしばらく知らない土地で過ごすんだって事を考えて、少しブルーになっていた。

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