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side さくら
「お久しぶりです。奥様」
怜が水沼先生の奥さんに向かってペコリと頭を下げた。
「ホントに久しぶりね。それにしても、相変わらず素敵ね、遙(はるか)さん」
怜と奥さんの会話はごく普通の会話に聞こえた。
でも、2人は何年か振りに会ったんじゃなくて、何十年振りとか…いや、もしかしたら、何百年…なのかもしれない。そう考えると、吸血鬼の命って、本当に長くて途方もないものなんだって思えた。
「以前会った時は、四国の方にいらした時でしたよね」
「そうそう、高知に居た頃よね。あれから、3回は引越ししたかしら」
そう言って奥さんは笑っていた。同じところにずっと居られないのは、年をとるのが人間よりもずっと遅いから、周りの人達に怪しまれないようにする為なんだろう。
怜はやっぱり俺とは違う世界に住んでいるんだな…って思うと、今まで一緒に生活していた事さえ不思議に思えてしまった。
「こちらね?…さくらさん…ってお名前でしたっけ?」
「えっと・・朔太郎(さくたろう)て言います。川原(かわはら)朔太郎」
「私は、水沼ゆかり。今はこの土地で、花屋をやっているの」
ゆかりさんは、怜よりかなり年上だろうと思っていたけれど、見た感じだと、三十代後半くらいだ。
「お世話になります」
俺は緊張しながらそう言った。店に出る時以外は人見知りだったりするのだ。
「主人はまだ帰ってないのだけど、3~4日で帰る予定だから、安心して下さいね」
「はい」
「それにしても、あなたは、朔太郎さんって感じじゃないわ。さくらさんって呼んでもいいかしら?」
ゆかりさんがそう言ってニッコリ笑った。話しやすそうな人だなと思った。
「はい。俺も、さくらって名前の方が好きですから」
昔から言われつづけて、慣れてしまった。朔太郎って顔じゃないって。
成長期を過ぎても変わらずに女顔だった、前は嫌だったけれど、今じゃ商売道具としちゃ最高だって思ってる。
「ホント…お話しないでいたら、とってもチャーミングなお嬢さんよね…。遙さんが間違えるわけだわ…」
ゆかりさんが、そう言って笑っていた。ゆかりさんの言葉を聞いて、怜が困ったような顔で俺を見た。
ごめんよ、俺の顔のせいで、こんなことになってしまったんだよな。
ついこの間まで、間違えたお前が悪い…って思っていたけど、今じゃ俺の方が悪いような気がして、怜の目を見ていられなかった。
「ごめんなさい。笑い事じゃ無かったのよね。とにかく、車に乗ってちょうだい。うちでお話しましょう」
車の中では、ゆかりさんと色々な話をした。
水沼家が高知に居たころに、怜と会った時の話とか、俺の仕事の話とか…。
ゆかりさんは、とても話やすかったし…ゆかりさんのおかげで、怜とも普通に会話が出来たから、単純に嬉しかった。
怜が、俺と2人だけの時よりも子供っぽく感じたのは、ゆかりさんが怜のことを子ども扱いするからなんだけど…。そんな怜が、妙に可愛らしく思えてしまった。
こんなに楽しい時間は、本当にもう残りわずかなんだろうか…。
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