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side さくら  話をしている途中で、急に何も言わなくなったので隣を見ると、怜は眠ってしまったようだった。  飛行機を降りてから我慢していたんだけど、俺はどうしても怜に触れていたくて、眠っている怜の手をそっと握り締めた。 「そう言えば、怪我をしたそうだけど、血は止まったのかしら?」 「止まったと思っていると、また出血しはじめたり、彼に触ると痛んで傷が開いたりしていたんですが、今は治まってるみたいです…」 「そう…良かったわ。何か特別な薬でも塗ったのかしら?」 「いえ、普通に消毒して、市販の化膿止めを塗ったくらいです」 「まぁ…そう?」  ゆかりさんが何かを考えていた。 「はるかさん、今日は血を吸おうとしなかった?」 「はい。でも、吸いたかったのかもしれないです。俺にはわからなかった…」 「症状の進みは落ち着いた感じなのかしら…。でも、はるかさんと一緒に居ると、危険かもしれないから、 用心の為に、私の所では別々の部屋を使ってもらうわね」 「わかりました」 「それにしても、はるかさんの例は、特殊だわ…親戚の方とも症状の出方が違うみたいで…」  ゆかりさんが、しばらく怜の親戚に出た症状の事を話していた。でも、俺はゆかりさんの話を上の空で聞きながら、ずっと怜の寝顔を見つめていた。 もう怜の傍に居られないんだ…治療が終わったら、俺達の不自然な関係も、本当の終わりを迎えてしまうんだ…。  しばらく黙ったまま怜の顔を見つめていると、ゆかりさんの俺を呼ぶ声が聞こえて、急に我に返った。 「さくらさん?」 「え…あ、はい」 「寂しそうな顔してるわね…」 「そんな…別に寂しいなんて…」 「そうなの?」  ホントは、すごく悲しかった。これからの事を考えると、どうしたら良いのかわからなくて、ただ怜の手を握り締めるだけだった。 「あの…」 「なぁに? さくらさん」 「あの…はるかさん…いえ、俺は、怜って呼んでいたんですが、怜と俺は、先生に治療して頂くまでってことで、一緒に暮らすことにしていたんです」 「私がその方が良いかもって言ったからね?」 「はい。…ずっとそのつもりだったんです」 「そのつもりだった…って過去形なの?」 「それが、自分でも今の気持ちが自分の本心なのか、わからないんですが…」  言って良いものなのか、迷っていた。男同士なのに、俺がこんな気持ちで居ることを彼女に言ったら、どう思われてしまうだろう? 「…どうしたの? いやじゃなかったら、話してみたら? 私は聞くだけしか出来ないかもしれないけど、話をしたら少しすっきりするかもしれないわよ。はるかさんとの事なんでしょ?」  ゆかりさんは、何かを感じとっていたのかもしれない。そう思った俺は、彼女に話してみようって思った。  誰かに聞いてもらいたかった怜への俺の気持ち…。

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