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side 怜  寝ている間に先生のお宅の着いていたのでしょうか?   目を覚ますと、ゆかりさんは運転席には座っておらず、車の中は私とさくちゃんの2人だけでした。  窓の外を見てみると、大きな2階建ての家の庭先に居ることがわかりました。きっと水沼先生のお宅なのでしょう。 ゆかりさんは家の中に入ってしまったのでしょうか? 「怜、よく寝てたね」  隣からさくちゃんの声がしました。さくちゃんは私の手を握りしめたまま、私の事をじっと見つめています。 その真っすぐな瞳を見た途端、私は胸が苦しくなりました。 「えぇ…すみません。疲れていたようです…」  私がそう言うと、さくちゃんは首をふりました。 「ごめんな…俺のせいで…」 「いえ、謝らないで下さい。さくちゃんの為に色々やるのは楽しかったですから」  本当の気持ちでした。さくちゃんに教えてもらったことはたくさんあります。すべて実用的な事なので、これから先の生活にも役立ちそうだと思いました。これから先の生活には、さくちゃんが居ないのですが――。 「……ありがとう…」  そう言った途端、さくちゃんの両目から大粒の涙が溢れ出しました。 その顔を見ているのが辛くて、私は思わず繋いでいた手を引き、さくちゃんの体を抱きしめてしまいました。  一瞬、さくちゃんがビクッと体を震わせたので、慌てて手を離そうとすると、さくちゃんが首を振って私の体に腕を巻きつけてきました。  それから、さくちゃんが私の肩に顔を押し付け、深呼吸を2回しました。 「怜、あのな」  肩に顔をつけたまま、さくちゃんが囁きました。 「はい…」  私は抱きしめている手で、さくちゃん背中を優しく撫ぜました。 「あのな…あの、俺…」  さくちゃんが何か言いあぐねていました 「何ですか?」 「やっぱ、すごい安心する…怜の腕の中」  さくちゃんが顔を少し傾ると、私の首筋に吐息がかかりました。 私はキスしたい衝動にかられてしまい、慌てて理性を総動員してどうにか自分を抑えました。 「…えっと、あの、ゆかりさんは?」  どうにか気持ちを紛らわせようとしました。そうです、ゆかりさんが戻って来るはずです。 「今、家に入ってる。ちょっと家の中片付けてくるからって」 「そうですか…」 「あのさ、俺、怜に話しておきたい事があるんだ」  もう一度顔を上げると、鼻を真っ赤にしたさくちゃんが、真っすぐ私を見つめました。 「あのな、怜…俺」  そこまで言った後、さくちゃんはもう一度深呼吸をしました。

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