104 / 169

104

side 怜  少し間があった後、さくちゃんの口から、思ってもいなかった言葉が発せられました。 「俺、怜が好きなんだ。…これからもずっと一緒に居たいって思うくらい」  私はまだ、夢の中にいるのでしょうか? 「ごめん。こんな事言われても、困るよな…でも、聞いて欲しかった」  驚きのあまり何も言えないでいる私を見て、さくちゃんが悲しそうな顔をしました。 「いえ…そんな、困るなんて」 「俺、怜の正直な気持ちを知りたいんだ…俺の事どう思ってる?」  私は嬉しくて嬉しくて、抱きしめている腕に力が入ってしまいました。 さくちゃんが、私の事を好きだと言ってくれています…私とずっと一緒に居たいって…。  何十年も流すことの無かった涙が、頬を伝うのがわかりました。 「ごめん、悩ませちゃったかな…良いんだよ、俺を傷つけないようにしようって思わなくても」 「違います…そんなんじゃありません」 「じゃあ、どうして…?」 「私もさくちゃんの事が好きです。だから、嬉しくて…」  そこまで言った時、車のドアが開きました。 「あらあら、仲が良いのね。あなた達…」  抱き合っている私達を見ても、ゆかりさんは特に気にする様子もなく、そう言いました。 私は、慌ててさくちゃんの体から腕を外し、そっと涙を拭きました。 「…すみません…」 「気にしないでいいのよ。さあ、家に入ってちょうだい」 「わかりました…」 「ごめんね、さくらさん…変な時に来ちゃって。ちゃんとノックしてから開けるべきだったわよね…。もしかして、話の途中だった?」 「いえ、良いんです。後でまた、ちゃんと話しますから」 「そう。それじゃ先に、部屋に荷物を運んでしまいましょう」 「はい」 「怜、さぁ、行こう」  先に車から出たさくちゃんが、私に向って手を差し伸べていました。私が手を取ると、さくちゃんがニッコリ微笑みました。  互いに好きだという事がわかり、幸せな気持ちでした。 「ゆかりさんに、聞いてもらったんだ…怜のことが好きだけど、どうしようって」 「そうだったんですか…」 「怜に気持ちを伝えてみた方が良いって言ってくれて…だから言えたんだ…」 「ありがとうございます」 「何で?」 「さくちゃんが言ってくれなかったら…さくちゃんを好きだって思う気持ちを、口にすることは無かったと思います…でも、辛かった」 「俺もだよ…。だけど、まだ話さないといけない事があるんだ」  さくちゃんが私の手を強く握りました。 私達には、好きという気持ちだけではすまない問題があるのを、さくちゃんもわかっているのです。これからの2人の関係については、真剣に話し合わなければなりません。  荷物を持ってゆかりさんの後に付いていこうとすると、さくちゃんがもう一度手を繋いできました。 「怜…」 「何ですか、さくちゃん?」 「あのさ、さくら…って呼んでよ。名前で呼ばれるの好きなんだ。でも、『朔太郎』じゃなんか可愛くないだろ?」 「はい、わかりました。えっと、さくら…さん?」 「さくら、だよ」 「…さくらちゃん…」 「もう、怜…。まぁ、良いか。大好きだよ、怜」  さくちゃんが私を見て、嬉しそうに微笑んでから、しっかり前を向き、歩き始めました。

ともだちにシェアしよう!