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105 saku
side さくら
怜が俺のことを好きでいてくれた。夢のようだった。
穏やかで誰にでも優しくて、だから俺に対する優しさも、好意とは別のものだと思っていた。
嬉しくて嬉しくて、俺は怜の手を強く握り締め、2人寄り添いながらゆかりさんの後に続いた。
明るくて暖かい家の中に入って行くと、新しい俺達の未来が見えたような気がして、ますます幸せな気持ちになった。
だけど、ゆかりさんがさっき言っていたとおり、俺と怜は別々の部屋に寝泊りすることになった。廊下を隔てた端と端の部屋…。心は近づいたのに、遠く離れてしまったような感じで寂しくなった。
お互い好きだってわかったから、キスもしたい抱きしめて欲しい…でもそれが出来ないなんて…。
でも、今は仕方がないんだ――。
それぞれ分かれて部屋に荷物を置きに行った。その後、ゆかりさんが俺の傷の様子を見るからと、居間に俺を連れて行ってくれた。
「さくらさん、怪我した所を見せてもらえるかしら?」
「はい」
包帯を外して、傷口を見てもらった。止まっていたはずの血が、再び滲み出ていた。
多分、怜とハグしたり手を繋いだりしたせいなんだろう…。
「また出血が始まったみたいね。ちょっと待ってて」
ゆかりさんが隣の部屋に行って、救急箱とキラキラした小瓶を持ってきた。
「これを塗っておけば、主人が帰る頃まで、出血をおさえておくことが出来ると思うわ」
ゆかりさんは、テーブルの上にあった救急箱から消毒液を出して、俺の両手首の傷口を消毒した後、瓶の中に入っていたゼリーのような薬を、金色の耳かきのような匙ですくって傷口につけてくれた。
その薬は、あっという間に固まって、傷口からの出血を止めてくれた。
とても不思議な薬だ…美味しそうなゼリーみたいだったのに…。吸血鬼専用の薬なんだろうか? 絆創膏もガーゼも要らなくて、便利だよな…。
自分の手首の傷口をを眺めていると、いつの間にかキッチンに行っていたゆかりさんの声が聞こえてきた。
「はるかさんを呼んでくるから、みんなでお茶でも飲みましょう」
「はい。ありがとう御座います」
キッチンを出ていくゆかりさんを見送ってから、俺は部屋の真中にあるソファーに座った。フワフワで気持ちがい良い。
家にある使い古しのソファーを思い出して、帰ったら買い換えようか? なんて考えていた。そうだ、ベッドもダブルにするかな…いや、キングサイズとかのほうが良いかもしれない。
そんな事を考えて、少し幸せな気分になった。
しばらくすると、ゆかりさんと怜が部屋に入って来た。
ちょっとの時間しか離れていなかったのに、怜に会えたことが、とても嬉しかった。
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