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109 saku
side さくら
3人でお茶を飲んでしばらく話した後、ゆかりさんが、俺と怜が2人で話が出来るように気を利かせてくれた。
怜と話しているうちに、どうしようも無い気持ちになってしまった。お互い好きな気持ちはあるのに一緒に暮らすとなると、問題が大きいような気がした。
「さくらちゃん…そんな顔しないで。お互いに好きだって気持ちがわかったんです。私は、それだけで幸せですよ」
怜が俺の両手を握りしめて、微笑んでいた。
「うん…そうだよな。俺、一気に欲張りすぎているのかもしれない」
一生懸命笑顔を作ったけれど、やっぱり不安だ…。
「なぁ、怜…俺、キスしたい」
ゆかりさんに聞こえないように、小さな声でそう言った。
「…それは、ちょっと…」
怜が戸惑っていたけど、俺は怜の隣の席に移動して、怜の頬を両手で包み込んだ。それから、怜の唇に触れるだけのキスをした。胸の中がキュンとした。
「…怜と抱き合いたいな…」
「さくらちゃん…今はダメですよ。あの、私…男性を抱いたことがありませんし、それに、今は自分を抑える自信がありませんので…。まさか、ゆかりさんに見ててもらう訳にはいかないでしょ?」
こんな話の時にも、まじめな怜らしい答えがかえってきたので、俺は思わず笑いそうになった。
「うん。俺も、人には見られたくないな…」
「2人で暮らせるようになったら、あの…さくらちゃんが…教えて下さいね、いろいろとあの…。ま、今は様々な方法で調べられますが…」
怜が真剣な顔で、そう言った。俺は我慢できなくなって、吹き出してしまった。
「わかったよ、怜」
笑っている俺を見て、怜が不思議そうな顔をしていた。
そんな所も大好きだよ、怜。俺のこと、好きでいてくれて、良かった…。
2人の気持ちが本物なのかどうか、今はわからないのだけど…。
「ゆかりさん、夕食は私がつくっても良いですか?」
話が一息つくと、怜がそう言って、台所に入っていった。
「あら? はるかさん、料理が出来るの?」
「えぇ」
「怜の料理って、すっごく美味いんですよ」
「そうなの? じゃあ、お願いしようかしら…」
ゆかりさんも台所に行って、食材の場所の説明などをしていた。
俺は、怜の料理が食べられると思うと、すっごく嬉しかった。もう2度と怜の作ったものを食べる事なんて無いんじゃないかと思っていたから…。
台所にいる怜を見て、幸せな気持ちになる。
良いよな…仕事から帰ってきたら、いつも怜がいて、俺の為に食事を作ってくれて、で、夜は愛を確かめ合って…・。そんな、ごく普通の生活を考えていた。
俺って、そんな平凡な幸せを求めていたんだ?
ずっと思い描いていた将来の夢よりも、怜との生活の方が大切なように思えていた。
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