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side さくら  怜が夕食の用意をしている間、俺はゆかりさんに布を分けてもらい、パッチワークに挑戦してみることにした。 怜と一緒に暮らせるようになった時の為に、ランチョンマットを作ってみようかと思った。  こんな俺でも、子供の頃からこういう事が嫌いじゃなかったから、やってるうちにすごく楽しくなってきた。 時々、台所にいる怜と会話しながら、テーブルで針仕事をする…なんだか、とっても満ち足りた気分だ。  7時半を過ぎたころ、ゆかりさんの息子の元樹(もとき)君から、店を閉めた後食事をして帰ると連絡があったので、怜とゆかりさんと3人で夕食を食べた。  怜の作った料理は、ゆかりさんにも好評で、怜はゆかりさんに、料理屋でも始めたら?って進められていた。 「そうですね…楽しそうですね、食べ物屋さんって」 「お客様が喜んでくれるとね、すごく嬉しいものなのよ。お客様の笑顔が見たくて、また頑張ろう…って思うの。今まで、私も色々なお店やってきたんだけど…」  ゆかりさんが懐かしそうにそう話していた。 「もし、私がお店を始めたら、さくらちゃんも手伝ってくれますよね?」  話の流れでそう言ったんだろうけど、もしかしたら、そんな生活もありかも? なんて思った。 「うん。もちろんだよ」  見つめ合っている俺達に、ゆかりさんが「2人の世界に入らないでよ…」って言って笑った。  食事が終わると、一休みしてから、俺と怜で台所の片づけをすることにした。 ゆかりさんはお風呂の準備をした後、俺たちのことが見える場所で、パッチワークの続きをやり始めた。 「母さん、ただいま」  洗い物が終わって、ふきんで食器を拭いていると、玄関の方から声が聞こえてきた。 「お帰り、元樹。今日はどうだった?」 「うん、結構お客さんが来てさ、忙しかったよ。それより、父さんの患者さんは来てるの?」 「ええ、いらしてるわよ。挨拶しなさい」  世話になるのは俺たちなんだから、挨拶しなきゃ…って思い、怜と一緒に台所から居間に出た。  ゆかりさんの息子の元樹は、背が高くてスタイルも良くて、女の子にもてそうな最近の大学生風の若者だった。 「これは、息子の元樹。こちらは、雨宮遙さんと、川原…えっとごめんなさい、何でしたっけ下の名前」 「さくらで良いです。あの名前、好きじゃないから」 「そう…?」 「どうも、川原さくらです。初めまして…。お世話になります」  俺がそう言うと、元樹は不思議そうな顔をしながら俺の顔を見た。店に出てる時の癖が出てしまい、ニッコリ微笑 んで会釈をすると、元樹が頬を染めて、俺のことを見つめ返した。

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