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side さくら 「久しぶり、元樹君。ずいぶん大人っぽくなったね」  怜がそう言うと、元樹は怜のことをチラッと見てから表情を歪めた。 「患者って、あんただったのか…。そりゃさ、俺はあんたみたいに大人の吸血鬼じゃないから、少しは成長してるさ」  彼が怜に好意的ではないことが感じ取られ、少し不安な気持ちになった。 「こら元樹、はるかさんにキチンと挨拶しなさい。何でそんな失礼な態度とるのよ? 昔、勉強教えてもらったりしていたでしょ?」  ゆかりさんがそう言うと、元樹がチッと舌打ちをした。態度悪い奴だな――。 「っせーな。俺は、コイツが…」  何かを言いかけた元樹に、ゆかりさんがキツイ視線を投げかけた。すると元樹はプイッと顔をそむけてから、心のこもっていない挨拶をした。 「お久しぶりです。雨宮さん」 「しばらくお世話になるから、宜しくね」  怜が優しく微笑みかけたのに、元樹は怜の目を見ようともせず、軽く頭を下げただけだった。 「ねぇ、さくらさん、あなたも吸血鬼なわけ?」  急に元樹が表情を変え、俺に声を掛けてきた。何だか懐かれたような気がする――。 「違うんだ。さくらさんは普通の人間なんだよ…」  怜の言葉に、元樹が溜息をついてから、呆れたような顔を向けた。 「何だよ、この人もあんたが手を付けたのかよ? いつもいつも…」 「元樹! 止めなさい。さくらさんも居るんだから」  ゆかりさんがそういうと、元樹が一瞬ひるんで言葉をとめた。 「なぁ、もしかして、さくらさんも父さんの患者なの? どうして人間のさくらさんが父さんに診てもらう必要があるのさ」  元樹が怜を睨みつけてから、言葉を続けた。 「あぁ、わかったよ。雨宮さんのせいなんだ? 可哀相に…さくらさん」  イヤミったらしくそう言ってから、元樹が俺の肩に手を回してきた。 「元樹、もう良いから、部屋に行ってなさい」  ゆかりさんに言われ、元樹は俺の肩から手を離すと、ぷいっと顔を背けて階段を上がって行ってしまった。 「ごめんなさいね、あの子ったら」  ゆかりさんが申し訳なさそうに俺と怜に謝った。 「いえ、良いんですよ」  怜が少し寂しそうな顔をしながらそう答えていた。  俺は、怜と元樹の間に溝がある事を感じ、ここに居ることが少し憂鬱になった。 でもまぁ、昼間はあいつは店に行っているんだろうけど――。 「さて、台所の片づけが終わったら、順番にお風呂に入ってしまったら? 元樹が入ると長いから」 「はい、ありがとうございます。後少しで食器を拭き終わりますから」  俺と怜は、キッチンに戻って食器の片付けの続きを始めた。 「なぁ、怜、元樹と何かあったの?」  気になっていたので怜に聞いてみた。何か理由がわかれば解決の糸口が見つけられるかもしれない。 「それが、私にも、良くわからないんです」 「そっか…。あいつも2階の部屋みたいだよな。なんかちょっと、不安なんだけど」 「大丈夫ですよ。私にはあんな態度ですが、ホントは優しい子ですから」  怜が俺の肩をポンポンと叩いた。 「そうなのかな…」

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