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side さくら  怜の事を思いながら少しずつ手を下に動かしていると、ドアをノックする音が聞こえた。 俺は慌てて動かしていた手を止めた。 「さくらさん」  ゆかりさんの声が聞こえた。  俺は慌ててシャツを戻し、昂ぶった気持ちを静めようと深呼吸をした。 「はい…」  部屋の入口の所に行って扉を開けると、ゆかりさんが部屋の前に立っていた。 「ごめんなさいね。もう寝てたのかしら?」 「え…いえ…」  俺は自分がやっていた事を思い出して恥ずかしくなり、ゆかりさんの視線をさり気なく避けた。 「お願いがあるのだけど…。さくらさん、寝る時は必ずドアに鍵をしておいてちょうだいね。それから……はるかさんが言ってたんだけど、 はるかさんがさくらさんの部屋に来て、さくらさんの事を呼んでも、絶対にドアを開けずに、ドア越しに話をするようにって。意味、わかるでしょ?」 「はい…」  怜の心配している事はわかる。怜がまた正気を失って、俺の血を吸うかもしれないと思っているんだろう。 「もし、何かあったら…無いに越した事はないのだけど…。向かいの部屋が元樹の部屋だから、助けを求めてちょうだい…」 「わかりました…」  こんなに近くに居るのに、好きだって事がわかったのに、触れ合えないなんて…。 「さくらさん、辛いのはわかるけど、我慢してね。はるかさんは、あなたの事がとても大切だって思っているのよ」 「はい…」  わかってる…だけど、胸が苦しくなってきて、自然に涙が溢れてきた。 自分がこんなに涙もろかったなんて――。 いや違う、やっぱり感情がコントロール出来ないんだ。  なぁ、怜、今すぐ抱きしめて、優しく微笑んでよ…。 そう思ったら、涙が止まらなくなった。  座り込んで子供のように泣きじゃくってる俺のことを、ゆかりさんが抱きしめてくれた。「はるかさんの前では泣かないであげてね。さくらさんが悲しそうだと、はるかさんも辛いと思うわ。 昼間なら、はるかさんと居られるでしょ? 私も一緒だけど…」  ゆかりさんが子供をあやすように、俺の背中をトントンと叩いた。 「…すみません。わかってるんですけど、自分でも気持ちがおさえられなくて…」 「そうね、辛いわね」  気持ちが落ち着くまで、ゆかりさんが傍に居てくれた。涙が枯れると、急に恥ずかしくなってしまい、顔が上げられなかった。 「ありがとうございました…。もう、大丈夫です」  自分の母親にも見せたことのないような醜態を、会ったばかりのゆかりさんにさらしてしまった……。  俯いたままでいると、ゆかりさんが俺の頭をくしゃくしゃっと撫ぜた。 「どういたしまして。それじゃ、下に行くわね」 「お休みなさい…」 「お休みなさい。ゆっくり休んでちょうだい」 「さくらさん、絶対に、鍵忘れないで」  部屋を出て、階段の方に行きかけたゆかりさんが、振り向いてもう一度俺に念を押した。 「はい」

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