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side さくら
ドアの鍵をかけてから、窓の所に行って、カーテンを開けた。
窓の外を見上げてみると、真っ暗な夜空一面に無数の星が散らばっていた。俺の住んでいる所じゃ、夜中になってもこれほどたくさんの星を見る事は出来ないな――。
それに、星が出ている時間なんて、俺は店でお客の相手をしている訳だから、最近は夜空を見上げる機会さえ無かったと思う。
店の終わる時間も星が出ているんだろうけど、酔っ払ってて夜空を見ようと思うこともなかった。
「これから、どうなるのかな…」
口をついて出た言葉に、自分でも不安になった。
治療が終わって、怜のこと好きだと思っている気持ちが無くなっていたら……? 単に怜と出会う前の生活に戻るだけだ、でも、今考えると堪えられないような思いだった。
「考えていても、仕方ないか…」
俺はカーテンを閉めると、ベッドにもぐり込み、枕をギュッと抱きしめた。
どうせなら、楽しい事を考えよう。
そうだよ、本当に怜と店を持つのも良いかも知れない。怜と一緒なら、何でも出来るんじゃないだろうか。接客は俺の得意分野だし、料理は怜の腕があれば、文句ないだろう…。
小さくて、シャレた感じの店の前に、俺と怜が笑顔で並んでいる姿を思い浮かべる…どんな料理を出す店にしよう? 店構えはオシャレだけど、メニューは定食風にしたりとか? あぁ、そうそう、店の名前はどうしよう?
2人の店を想像しながら、楽しい気分のまま、いつの間にかウトウトと眠っていたようだ。どのくらい眠ったのかわからなかったが、眠りが浅かったのか、小さなノックの音に目を覚ました。
ドアを開けようか迷ったのだが、もう一度ドアを叩く小さな音が聞こえてくると、俺の体は自然に動き出し、ドアのノブに手をかけた。
「怜?」
「そうです」
愛しい怜の声が聞こえてきた。ちょっとで良いから話したい…顔が見たい…おやすみのキスぐらいしても平気じゃないか?
「もう寝るの?」
「はい…えっと、お休みなさい、さくらちゃん」
「うん。お休み…ねぇ、怜、ちょっとだけ、ドア開けてもいい?」
「ダメですよ。また、明日会えます」
「うん…わかってる…でも」
「それじゃあ…あの、愛していますよ、さくらちゃん」
囁くような声が聞こえて体が熱くなる…。
「俺も、愛してる」
ドアに手を当て、怜の体に触れているつもりでそう言った。
その後、微かな足音が、ドアの前から遠ざかっていくのが聞こえた。
俺は熱くなった自分の体を抱きしめ、ベッドに転がった。
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