118 / 169

118

side さくら 『騙されたらダメだよ…』って元樹が言ってた…。 怜は以前、誰かを騙したりしたことがあるんだろうか? ううん、そんな訳ない…ゆかりさんだって、怜は優しい人だって言っていた、俺のこと大事に思ってるって言ってたじゃないか…。    考えても考えても、何も答えは出なかった。  しばらくすると、さっきまで俺が使っていた部屋に、誰かが入っていく音が聞こえた。きっと、元樹だろう。  あれから、ずいぶん時間が経ったように思うのに…ゆかりさんと元樹は、怜を部屋に連れて行ってから今まで一体何をしていたんだろう?  何度も寝返りを打って、眠ろうとした。 不安な気持ちに押し潰されそうになりながらも、いつの間にか俺は眠りに ついていた。 「さくらさん、起きてる?」  ドアをノックする音と、ゆかりさんが俺を呼ぶ声が聞こえて目が覚めた。窓の外はすっかり明るくなっていて、カーテ ンの隙間から、眩しい光が差し込んでいた。 「おはようございます…今起きました…」  頭をかきながらドアを開けて、ゆかりさんに朝の挨拶をした。 「ごめんなさいね、まだ、寝ていたのね…でも、もうお昼近いから起こした方が良いかなって思って。あんまり起きてこないから、ちょっと心配で…」  ゆかりさんが、表情を伺うように俺の顔を見つめていた。 「えっと…なかなか眠れなかったから…」 「そう…よね…」 「…昨日は本当にすみませんでした」 「…こちらこそ御免なさいね。もう少し、さくらさんの気持ちを、考えておくべきだったわ…」 「…いえ…俺が、ちゃんと忠告を聞かなかったからなんです…元樹くんにも、迷惑かけてしまって…」  元樹の名前を出すと、ゆかりさんが困ったような顔をして『失礼な事ばかり言う子で御免なさい』って呟いた。  俺は元樹がどうして怜のことを悪く言うのか、その理由が知りたかった。怜のことは信じている。でも、元樹が知ってる怜のことを知りたいと思った。俺の知らない怜… 「あの…ところで…怜は、もう起きてますか?」  急に怜に会いたくなって、ゆかりさんに聞いてみた。きっと今なら、普通の怜に戻っているはずだ…。 「ゆかりさん? 怜は?」  もう一度、怜の名前を出すと、ゆかりさんが怜の部屋の方を見つめながら、小さい声で答えた。 「部屋にいるわ」 「あの、怜に会いたいから、一緒に部屋に行ってもらえますか?」 「えぇ…」  ゆかりさんの後に付いて廊下を歩いた。ほんの少しの距離だって言うのに、歩くのさえもどかしくて仕方なかった。

ともだちにシェアしよう!