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side さくら
『騙されたらダメだよ…』って元樹が言ってた…。
怜は以前、誰かを騙したりしたことがあるんだろうか? ううん、そんな訳ない…ゆかりさんだって、怜は優しい人だって言っていた、俺のこと大事に思ってるって言ってたじゃないか…。
考えても考えても、何も答えは出なかった。
しばらくすると、さっきまで俺が使っていた部屋に、誰かが入っていく音が聞こえた。きっと、元樹だろう。
あれから、ずいぶん時間が経ったように思うのに…ゆかりさんと元樹は、怜を部屋に連れて行ってから今まで一体何をしていたんだろう?
何度も寝返りを打って、眠ろうとした。 不安な気持ちに押し潰されそうになりながらも、いつの間にか俺は眠りに ついていた。
「さくらさん、起きてる?」
ドアをノックする音と、ゆかりさんが俺を呼ぶ声が聞こえて目が覚めた。窓の外はすっかり明るくなっていて、カーテ ンの隙間から、眩しい光が差し込んでいた。
「おはようございます…今起きました…」
頭をかきながらドアを開けて、ゆかりさんに朝の挨拶をした。
「ごめんなさいね、まだ、寝ていたのね…でも、もうお昼近いから起こした方が良いかなって思って。あんまり起きてこないから、ちょっと心配で…」
ゆかりさんが、表情を伺うように俺の顔を見つめていた。
「えっと…なかなか眠れなかったから…」
「そう…よね…」
「…昨日は本当にすみませんでした」
「…こちらこそ御免なさいね。もう少し、さくらさんの気持ちを、考えておくべきだったわ…」
「…いえ…俺が、ちゃんと忠告を聞かなかったからなんです…元樹くんにも、迷惑かけてしまって…」
元樹の名前を出すと、ゆかりさんが困ったような顔をして『失礼な事ばかり言う子で御免なさい』って呟いた。
俺は元樹がどうして怜のことを悪く言うのか、その理由が知りたかった。怜のことは信じている。でも、元樹が知ってる怜のことを知りたいと思った。俺の知らない怜…
「あの…ところで…怜は、もう起きてますか?」
急に怜に会いたくなって、ゆかりさんに聞いてみた。きっと今なら、普通の怜に戻っているはずだ…。
「ゆかりさん? 怜は?」
もう一度、怜の名前を出すと、ゆかりさんが怜の部屋の方を見つめながら、小さい声で答えた。
「部屋にいるわ」
「あの、怜に会いたいから、一緒に部屋に行ってもらえますか?」
「えぇ…」
ゆかりさんの後に付いて廊下を歩いた。ほんの少しの距離だって言うのに、歩くのさえもどかしくて仕方なかった。
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