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side さくら  怜の部屋の前に来ると、ゆかりさんがエプロンのポケットから出した鍵で、ドアをあけた。  考えてみたら、怜が昨日の夜のように正気を失っている状態のままだとしたら、俺とゆかりさんの2人で怜を抑えることなんて出来ないはずだ。 だけど、俺はその事を考えないようにしていた。 とにかく怜に会いたい、今すぐ会いたい。 「おはよう…怜」  怜はまだベッドの中にいた。何だ…怜も起きてなかったんだ?  俺はベッドに近づいて膝をくと怜の顔を覗き込み、布団の上から怜の体を揺すった。 「怜? なぁ、もう起きろよ。一緒に朝ご飯食べようぜ。俺、腹減ったよ」 「さくらさん…」  ゆかりさんに名前を呼ばれたような気がしたけれど、俺は怜を起こす事に夢中になっていた。 「れーい! 起きろったら。いつまで寝てるんだよ…」  俺はそう言いながら、両手で怜の頬をパンパンと軽く叩いた。 「わっ…」  怜の頬はとてもつめ冷たかった。あまりにも冷くて、心臓が止まりそうなほど驚いた。 「…怜…?」  まさか…怜、生きているんだろ? 「あのね、さくらさん」  ゆかりさんが俺に何か言おうとしていた。だけど、動揺していた俺は、それを聞く前に、ゆかりさんに詰め寄っていた。 「怜は、怜はどうしちゃったんだよ? ゆかりさん、ねぇ、どうして怜はこんなに冷たいの? まさか…」  俺は最悪の事態を考えていた。愛を確かめ合うことも出来ないまま、怜と永遠の別れをする時を迎えてしまったのだろうか? 「落ち着いて、さくらさん。あのね、はるかさんは今、仮死状態になっているの」  ゆかりさんが俺の両肩に手をのせて、俺の目を覗き込んでいた。 「…カシジョウタイ?」  俺が呟くと、ゆかりさんが頷いた。 「そう」 「怜は…生きてますよね?」 「えぇ、生きているわ。何て言ったらわかる…? 冬眠してるみたいな感じかしら」 「わかります…でも…なんで?」 「昨日の夜、元樹と一緒にはるかさんを部屋に運んだでしょ?」 「…」 「その後、すぐにはるかさんが目を覚ましたの。薬を使ったのに、そんなにすぐ目を覚ましてしまうと思わなかったわ…。短くても1時間は薬が効いて眠っているはずだったの」 「そうだったんですか…。怜は、正気を失ったままだったんですか?」 「ううん。いつものはるかさんだったの」

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