120 / 169

120 rei

side 怜 「ゆかりさん? 元樹君…何故、ここに居るんですか?」 「何とぼけてるんだよ、あんた」  元樹くんが私を見て、嫌悪をあらわにしていました。  私は、お風呂の後、さくちゃんにお休みの挨拶をして、それから、部屋に戻って…。  その後の記憶がありません…もしかしたら、2人が私の部屋に居ると言う事は、私はさくちゃんに何か…。 「あの…さくらちゃんは、大丈夫なんでしょうか?」 「えぇ、平気よ、安心して。…ごめんなさいね。私、もう少し真剣に考えておくんだったわ。もしかしたら、さくらさんが鍵を開けてしまうかもしれないって、気にはなっていたのに…」 「そうだよ、母さん。さくらさんは、すっかりコイツに騙されてるんだから、『愛してる』とか言われて、『顔が見たい』なんて囁かれたら、ドア開けないわけないじゃないか」 「元樹…どうして、そんな失礼な言い方するの? はるかさんが貴方に何かしたの?」 「俺に? 別に、俺になんて何もするわけ無いじゃない。とにかく俺は、こいつが気に入らないだけだよ」  元樹君が冷たい視線で私を睨みつけていました。胸がチクチク痛みます…どうして、元樹くんは私を毛嫌いするようになったのでしょう…? 「これ以上、はるかさんのこと悪く言うんだったら、もう、部屋に戻っていなさい」  ゆかりさんがそう言うと、元樹くんが仕方ないって顔をして、口を閉じました。部屋に戻らなかったのは、少しは私の事を心配してくれているからなのでしょうか? 「あのね、はるかさん…考えたんだけど…」  しばらく黙っていたゆかりさんが、迷いながら何かを言おうとしています。ソレが何なのか、私にもわかっていました。私も同じ事を考えていたからです。  さくちゃんを傷つけないようにするには、そうすることが一番良いのでしょう。さくちゃんの側にいてあげられないのが気がかりですが、もうすぐ、水沼先生も帰っていらっし ゃる事です。さくちゃんと私自身の為には仕方のない事です。 「わかっています。先生が帰っていらっしゃるまで、眠らせていただいた方が良いと思います…」 「えぇ。そうすれば、『血を吸ってしまったら…』って心配しないでもすむでしょうし…」 「はい…私も考えてはいたのですが…」 「さくらさんの傍に居たかったのよね」 「…・はい…」  そう答えた私に、元樹君がキツイ視線を向けていました。信用されていない事がわかり、再び辛い気持ちになりました。 「それじゃあ、明日、さくらさんに話してからにしましょうか。とりあえず今日は、外からの鍵をかけておくようにするから…」 「いえ…・今すぐにして下さい。明日、さくらちゃんに会ったら、決心が鈍ってしまいそうです。さくらちゃんの悲しそうな顔を見たくないので…」 「でも、それで良いの?」 「はい。お願いします」  ゆかりさんが下の部屋に薬を取りに行っている間、私はさくちゃんに手紙を書いておくことにしました。 元樹君は、だまって壁に寄りかかりながら私の様子を伺っているようです。

ともだちにシェアしよう!