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side さくら  眠っている怜の唇にキスをした。冷たいその唇を指で辿る。  また泣きそう…バカだな俺。 『さくらちゃんへ  大切な貴方をこれ以上傷つけたくないので、先生が帰っていらっしゃるまで私は眠って待つことにしました。  貴方は、治療の後、私に対する気持ちが変わっているかもしれないと言われていたけれど、私はきっと今と変わらず、貴方の事を愛しいと思っているでしょう。  たとえ、貴方の気持ちが私から離れてしまっても、私は貴方のことを愛し、守っていきたいと思っています。  だから、ずっと貴方の傍に居させて下さい。    後少しで、健康な体に戻れます。辛いかも知れませんが、待っていて下さい。 -怜-』  ゆかりさんが怜の書いた手紙を渡してくれた。読んでいて涙が出た。やっぱり、これが本当の怜のなんだ。 正体を失ってしまったのは、俺の血のせい…。 「主人から連絡があったの。明々後日には帰ってくるって。すぐにでも帰ってくれれば良いのに。本当にごめんなさいね。でも、主人が言うには、絶対に治る薬を持って帰るから、心配しないでって」 「そうですか」 「さくらさん、今日も一緒にやりましょ? パッチワーク」 「……はい」  そうだよ…。余計な事を考えないように、何かに集中していれば良いんだ。  怜の部屋を出てから、1階の部屋に行き、ゆかりさんと一緒に朝食を食べた。もう時間的には昼飯の時間だったけど…。 「元樹君は、仕事ですか?」 「そうよ。今日も少し遅くなるらしいわ」  元樹には助けてもらったけど、あいつが早く帰って来ようが遅くなろうが、俺にはどうでも良い事だった。俺には、やけに優しくしてくれるけど、その優しさが怜へのあてつけのようにも思えてしまうから…俺は、あいつのことが、いまいち好きになれなかった。 「あの、ゆかりさんは、何か知ってるんですか?」 「え? 何のこと?」 「元樹君が、怜のこと悪く言う理由…」 「…そうね…・はっきりは分からないの。だけど、はるかさんだけが嫌なわけじゃ無いみたいなの」 「どういう事ですか?」 「自分が吸血鬼だっていうことが、許せないみたいなの」 「…許せない?」 「本当は、父親や私に対して文句を言いたいのかも知れないわ。でも、あの子、私が傷つくと思って、私には何も言わないのよ。その分、久しぶりに会ったはるかさんに、八つ当たりしているような気がするの。困った子だわ…」  どうやら、人間の俺には分からない、彼なりの悩みがあるようだ。 でも、理由は本当にそれだけなんだろうか? 怜に対して言っていた言葉を思い出すと、他にも何かありそうな感じがする。だけど、ゆかりさんが、そこまでで話を止めてしまったので、俺もそれ以上聞くことは出来なかった。

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