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side さくら 「さくらさん? どうかしたの?」  部屋の中をうろうろしている俺を見た、ゆかりさんが心配そうに声をかけてきた。 「怜の声が、聞こえたんだ。俺のこと呼んでた。考え事しながら裁縫するなって…」 「はるかさんが?」  ゆかりさんが不思議そうな顔をした。 「そう。でも、声だけしか聞こえないんだ」 「さくらさん。座って話しましょ」  ゆかりさんにソファーに座るように促された。 「…はい」 -さくらちゃん…私は、いつもあなたの傍にいますよ- 「ほら…ゆかりさんも聞こえたでしょ?」 「ううん。私には聞こえないのよ」 「さくらさん、手を出して」 「はい」  傷口をおさえているティッシュが、血で赤く染まっていた。ほんの小さな傷だけど、今の俺の身体は、その傷さえも治せないでいるようだ。 -大丈夫ですよ。もうすぐ先生が帰ってくるから- 「うん、分かってる…なぁ怜、俺、早くお前に会いたい」 -私もです- 「あのな、怜、愛してるから…。だから、ずっと俺の傍に居て…」  怜の事が無性に恋しくて、目を閉じながらそう言って、怜の返事を待った。 -愛していますよ、さくらちゃん。ずっと傍にいて良いんですか?-  怜の言葉に安心して、身体の力が抜ける。 「当たり前だろ?」 -あなたの気持ちが離れてしまっても?- 「そんな事、絶対無いよ…」  ホントは、怜のこと覚えていなかったりしたら、俺たちはどうなるんだろう? とか、  お互いに興味も湧かなかったらどうしよう? とか、  不安な気持ちは消えていなかった。  だけど、今はそんな事言えるような精神状態では無かった。  とにかく、「怜を愛してる」という思いを伝えたかった。 「あらあら、私には、はるかさんの声は聞こえないけど、聞いてる方が、ちょっと恥ずかしくなるような会話しているみたいじゃない?」  ゆかりさんが傷口を消毒しながらそう言って笑った。 「あ…すみません…あの、でもどうして、怜の声が聞こえてくるんだろう?」 「そうねぇ…お互いのことを思う気持ちが強いからじゃないかしら」  可愛らしく微笑んだゆかりさんが、そう言ってウインクした。  俺は急に恥ずかしくなって、顔が熱くなった。 「不思議だな…」 「そうね。でも、この傷の血を止めたら、多分聞こえなくなると思うわ」 「え…」  それじゃあ、もし血を止めないでいたら、いつでも怜と会話出来るんじゃないだろうか?話が出来るんなら、このくらいの血そのままにしておいたって… 「さくらさん? 薬は塗っておかないとダメよ。分かってる?」  ゆかりさんが俺の考えている事を察して、そう言った。 「はい…」  -さくらちゃん、後少しだから、我慢して下さい- 「わかってるよ…」  ミントゼリーみたいな薬をつけると、怜の声は聞こえなくなった。

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