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side さくら 「さくらさん?」  急に、背中の方から声が聞こえたので、焦って手を床につきながら振り返ると、元樹が俺の後ろに立っていた。  いつの間に入って来たんだろう…。ドアの音も聞こえないくらい、盛ってたのかな? 俺は、メチャメチャ恥ずかしくなった。 「あぁ…元樹、お帰り。お疲れさん」  俺は動揺を隠しつつ、元樹に声をかけた。 「ただいま…さくらさん。あれ、何してたの? あ、そっか…もしかして、聞いちゃいけない事かな?」  ティッシュの箱に視線を向けながら、元樹がクスッと笑った。 「あ、いや、別にさぁ」  俺はバツが悪くなって元樹の視線を避けた。 「気にしなくて良いよ。俺だって、時々抜いてるし…」  いや、本当に、何てタイミングなんだ…。 「いや、だから、別に、怜に会いに来ただけだから」 「ふーん」  元樹がニヤニヤしたまま俺の横に座り込み、パッと俺の股間に手を伸ばして、手をおしつけた。 「うあっ…」  俺は焦って変な声を出してしまった。 「なーんだ。やっぱり? さくらさんの、元気じゃない。ねぇ、俺が抜いてあげようか?」 「や、やめろって。後で自分でやるから…」  腰を抱いてきた元樹の手を、必死に振り解きながら、抵抗した。 「ねぇ、さくらさん、俺にやらせてよ。俺、他の人のを抜いてやった事無いんだ。それにさ、相手が女じゃなくても気持ち良さは同じでしょ? っていうか、男同士の方が気持ちいいやり方わかるじゃん。自分で抜くより、よっぽど興奮すると思うんだよね」  元樹が少し興奮気味に言ってきた。ヤバいだろ? 俺――。 「あのな、俺はやってもらいたくないっての。好きな相手じゃないと、嫌なんだよ」  好きでもない相手とも色々やってきたんだけど、今の俺は、怜以外の奴に触れられたくなかった。 「そんなに雨宮さんの事が気になるんだ?」 「当たり前だろ? 俺たち、やっと気持ちがわかり合えた所なんだから」  キツイ言い方にならない程度に、邪魔するなよ…って気持ちを込めて言った。 「そっか…雨宮さん、優しいからな。飽きるまでは」  元樹が微かに首を振りながら呟いた。 「飽きるまでって? 何だよそれ…」 「関係が成立して、恋人として過ごす間は、信じられないくらい優しくて、飽きちゃうと、非情なほど冷たい… ってね」 「それは、違うと思うけど」  怜が言ってた事を思い出す…自分は人間と同じようには年をとらないから、一生を共にする事が出来ない、だから、情がうつりきってしまう前に、離れるようにしているって。元樹だってわかっていそうな気がするのに――。 「どうだか…」  元樹が吐き捨てるように呟いた。  俺は怜を信じたい。  怜だって、ずっと辛かったはずなんだ、愛した人と一緒に年をとれないって事が。

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