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side さくら
汚れた手を洗ってから、下着とスウェットを着け、怜のベッドのそばに戻り、怜の唇にキスを1つ落とした。
「お休み…怜。明日も必ず来るからな。愛しているよ」
それから俺は自分の部屋に戻り、明日の事を漠然と考えた。まだ、会ったばかりの、それも大好きな怜の事を良く思っていない元樹と、出かける事になってしまうなんて…。
元樹の奴、いったい何を考えているんだろう? 怜が言ってたように、本当は優しい奴なんだろうか?
俺のこと気に入ったなんて、冗談なんだよな? じゃなきゃ、ちょっとマズイんじゃないか?
怜、守っててくれよ? って、吸血鬼にそんな願いをするのも変だよねぁ。
「さくらさん、起きて!」
次の日の朝、俺を呼んでいる嬉しそうな声と、ドアを叩く騒がしい音で目が覚めた。
昨日の夜は、色々考えていたせいで、あまりよく眠れなくて――。
まだ眠いんだけど…。
「ちょっと、待ってよ、もう少し寝てたいんだけど…」
「もう俺、ずいぶん前から起きてるんだよ。さくらさんが起きるの待ってたけど、全然部屋から出てこないし…」
ドアの外で子供のようにはしゃいでる元樹に、ちょっと溜息が出た。
「なぁ…今、何時なんだよ?」
「9時だよ! 早く食事して、出かけよう」
俺がまだ寝ていたいと言ってるのに、元樹は全然聞いていない感じだった。
「んー…わかったって。今、着替えるから、待ってろって」
仕方がないので、俺はベッドからノロノロと抜け出した。
「じゃ、俺、下に行って待ってるから。母さんにすぐ食事出来るように頼んでおく」
その声と共に、元樹がバタバタ音を立てながら階段を下りて行った。
「あー…オッケ」
朝からあのテンションだと、ついていくのが大変だろうな――。俺はもう一度、深い溜息をついた。
着替えを終えて、廊下に出ると、階段の向こう側の部屋のドアを見つめた。怜は昨日からあそこで眠りつづけて いる。
「やっぱ、顔出しておこう」
怜の部屋の前まで行き、ドアを開けて、部屋の中に入り静かにドアを閉めた。
「おはよ、怜」
ベッドの横に膝をついて座り、冷たい頬にキスをした。
「昨日も言ったけどさ、今日、元樹と出かけてくるな。なんかさ、あいつ、やけにテンション高くて、疲れそうなんだけど…でも、行って来る…約束しちゃったから。あいつが変な事しないように、見張っててくれよ…」
左手で怜の手を握りしめ、もう片方の手で、頬を撫ぜた。
「早く暖かい怜に触れたいな…じゃ、また、夜来るから」
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