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side さくら
怜の部屋を出て、階段を下り始めた。下の部屋からは、何故か元樹の不機嫌な声が聞こえていた。
「だって、さくらさんと約束したんだ。今日、車で出かけようって」
「でも、お父さんがね…」
「いいじゃん、明日だって!」
「だけど…」
2人が台所で何か言い争っている。
先生が、一体どうしたんだ? 俺は少し不安を感じながら、2人に声をかけた。
「…おはようございます…」
「あら、おはよう。さくらさん」
ゆかりさんが、ちょっとビックリしたような顔をして、俺のほうを振り向いた。
「さくらさん…な、約束したよね」
元樹は、すがり付くような視線で俺を見ている。
「え…」
「今日一緒に出かけようって、約束」
「あぁ、したけど…それが、どうかした?」
「親父が今日帰ってくるんだって。だから…」
「あのね、主人の予定が急に変わって、今日のお昼までには戻ってこられる事になったのよ。だから、主人が帰ってきたらすぐに…」
「ダメだよ! 俺、さくらさんを色んな所に連れて行ってあげようと思って、夜考えてたんだから!」
「元樹…さくらさんに迷惑でしょ?」
「ねぇ、さくらさん!」
ゆかりさんは困ったような顔をしたままだし、元樹は俺の腕を掴んで、泣きそうな顔をしている。
「…ゆかりさん、俺、元樹くんと約束したから、行って来ます…」
「やった!」
元樹が目を輝かせ、俺の手を取りながら声を弾ませた。
「でも…」
「もし、先生のご都合が悪くないようだったら、治療は帰ってからでも良いですし、明日とか、別の日でも…」
「いいの? さくらさん…」
「はい。あの…先生の予定は?」
「あの人は、帰ってきたらしばらく家でブラブラしてると思うから、いつでも大丈夫なはずだけど…」
「じゃ、決まりだよ。かあさん、早く食事にして。すぐに出かけるから」
「仕方ないわねぇ…さくらさん、本当にごめんなさい」
元樹に振り回されているゆかりさんが少し気の毒になってしまった。
「いえ…大丈夫ですよ」
仕事の時の癖で、満面の笑みでそう答えてしまった。でも、本当は一刻も早く目覚めた怜に会いたかった。
でも、元樹との約束を守らないと…。それで、怜に対するあいつの態度を、少しでも和らげる事が出来るのなら。
「ねぇ、さくらさん、顔洗って来た?」
居間に戻ると元樹が聞いてきた。
「え、あぁ。今、行こうと思ってた…」
「ほらほら、早く洗いに行こう」
俺は元樹に手を引っ張られて、洗面所に行って顔を洗った。
元樹は、顔を洗っている俺の横で、今日行く所について あれこれ説明をしていた。
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