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sideさくら
「後さ、さくらさんに着て欲しい服があるんだけど…」
押せ押せだった元樹が、急に遠慮がちになった。
ちょっと待てよ…着て欲しい服って、なんだよ、それ?
「えっと、悪いけど、見てから決めるのでいい?」
「え? 良いけどさ、大丈夫だよ、きっと似合うから。今持ってくる」
そう言って元樹がバタバタと階段を上がっていった。
「あー…」
顔を拭いてから鏡を見た。まさか、女の服とか言わないよな…そう思って、ゲンナリしてしまった。
店の客で時々を服をプレゼントしてくれる奴がいるのだが、俺が女の格好をするのが好きだと思っているのか、 ドレスだったり、ヒラヒラしたセクシーなワンピースだったりするわけだ。今の俺は、店の時のような格好をしていないから、まさかとは思うんだけど…。
そんな風に考えていたら、ゆかりさんのいる居間に戻るかどうか、迷い始めて。
「あれ、さくらさん?」
元樹の声が聞こえてきた。俺は一抹の不安を感じながら、声のする方に歩いていった。
「なに?」
「これこれ」
元樹が持ってきたのは、ドレスでもなく、女物の服でもない、それは良いんだけど…。
「これ…着るの?」
「似合うと思うんだけどな? さくらさん、見た感じ学生にも見えるから」
お前は充分学生に見えるけど…俺は微妙だよなと思いながら、元樹の持ってきたパーカーと英字がいっぱい書いてあるTシャツを眺めた。よく見なければ、わからないかもしれないのだけど…。
「もしかして、これって、色違いでオソロイ…だよな? あのさ、俺たちさ、男同士だし、その…」
「大丈夫だよ。さくらさん、男に見えないし」
いや、そういう問題じゃなくて…って心の中で呟いた。
「そのパンツにあわなそうだったら、俺の貸してあげるし」
「いや、多分、これでもおかしくないんじゃない。程々にオシャレだと思うよ」
「そうだろ? 良かった。気に入ってくれると思った」
「気に入った訳じゃないけど」
「…え? 嫌なの?」
しっぽをブンブン振っていた子犬が、急にシュンとうなだれてしまったような感じだ。
「別に良いよ…着てってやるよ」
半分やけくそでそう言うと、元樹のしっぽがまたピンと立ったように感じがした。
俺の返事に「良かった…」と言いながら、 元樹はゆかりさんの手伝いを始めた。
若くて子供っぽい元樹は、穏やかで大人の雰囲気の怜とあまりにも違いすぎて面食らってしまった。
だけど、心の中で必死に、こいつとのデートが終われば怜と会えると思い、ブルーになりそうな気持ちをどうにか切り替えていた。
そうだよ、もしかしたら、俺が帰る頃には、怜は目覚めていて、俺のことを待っているかもしれないじゃないか。
そう思った途端、急に元気が沸いてきた。
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