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side さくら
「へー。何だか、日本じゃないみたいだよな」
運河の近くまで来たら、ちょっとブルーだった気分が、何処かに消え去った。そして、見たことの無いような景色に、思わず驚きの声を上げてしまった。
そのまましばらく、石が敷き詰められた歩道を、運河に沿って歩いていていった。河の向こう側にある石造りの倉庫とか、歩道に並ぶガス燈を眺めながら、元樹の説明を聞いていた。
「夕方に来ると、もっと綺麗で良いんだろうけどね…」
「ふーん…」
大学を中退して、あの店で働くようになってから、こうやって何処かに遊びに来ることも無かったんだな…。そう思うと、ここまで来た本当の理由も忘れ、何だかちょっと開放的で良い気分になってきた。
「あそこに小樽運河食堂って言うのがあるでしょ? 俺、行ってみたかったんだよ」
「へぇー」
「ちゃんとした店に行くのも良いかなと思ったんだけど、ここ俺も行ったことなかったから、気になっていたんだ。地元の友人はなかなか誘えなくてさ」
「じゃ、後で行ってみようぜ」
「やった!」
嬉しそうに笑っている元樹を見ていると、悪いやつじゃないんだろうなと思えてくる。怜の言っていたように、やっぱり根は良いやつなのかも――。
元樹が次に連れて行ってくれたのは、ガラス工芸の店だった。見るだけじゃなくて、自分でも作品を作れるのだ。あらかじめ、元樹が予約していてくれたらしくて、俺達は、サンドブラストというものを体験する事が出来た。
自分のデザインした文字や絵柄をシートで切り出して、それをグラスに貼り付け、砂を吹き付けて、くもりガラスのようにするもので、シートを剥がした所は、透明なままのガラスが模様を作っているのだ。
俺は物を作ることが昔から好きなので、思わず熱中してしまい、かなり細かい模様の作品になってしまった。だから、思いのほか時間がかかってしまい、時計を見ると既に1時に近かった。
「すっげー楽しかったよ、元樹。ありがとな」
「楽しんでもらえて良かったよ。さくらさんったら、すごい集中力だったよね。俺なんて飽きちゃって、ずっと店の中見てまわってたよ」
元樹は俺より30分以上も早く出来上がっていたようだ。俺は、元樹が終わったのにも気が付かないで、作業していたらしい。
「今度は吹きガラスやってみたいよなー」
深く考えないで、思ったことを素直に言ってしまった。
「…また…一緒に来れると良いね」
元樹の寂しそうな声を聞いて、軽率だったなと反省した。怜と一緒に家に帰れば、もう、元樹と会うことは無いだろう。
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