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side さくら 「お腹すいたでしょ? 食事しようよ」 「あぁ、そうだな」  元樹に連れられ、さっき話しに出ていた『小樽運河食堂』という所に行った。 運河沿いに並んでいる倉庫の中でも、飛びぬけて大きな石造りの倉庫。その中は、昭和に戻ったような世界だった。実際の昭和初期を知っているわけじゃないけど、何だか懐かしいような、そんな気分にさせられた。 「すごいなー」 「俺さ、実際にこの年代に、来た事あるんだけどね、ホント、こんなんだったなー」 「はぁ? だって、元樹、お前まだ…」  20代だろ? って言おうと思って、言葉を飲んだ。すっかり忘れていたけれど、こいつも怜と同じ、吸血鬼だったんだ… 「あの頃の俺は、見た感じ高校生くらいだったかな」  元樹がボソッとそう言った。 「ふーん…でもさ、吸血鬼って年をとらないんじゃねーの?」  近くを歩いている人達のことが気になり、急に声を落としてそう聞いた。 「まぁね。年を取らないって言っても、生まれた時から大人なわけ無いじゃん」 「あぁ、そうだよな」 「人間より、年を取るのが、遅いだけさ」  投げやりにそう言うと、それっきり口を閉ざしてしまった。  そう言えば、ゆかりさんが言ってたじゃないか…元樹が、自分が吸血鬼である事を嫌がっていて、怜に対して反抗的な態度をとっているみたいだって。それなのに、俺ったら、元樹が振ってきたからって、吸血鬼って言葉まで出してしまうなんて…仕事の時は、相手の嫌がりそうな話題をなるべく避けるように気を付けられるのに…。  元樹が思ったよりもいい奴で、話もしやすかったから、気が緩んでしまっていたのかもしれない。 「ごめん」 「何で?」 「何となくさ」 「やっぱり、さくらさんは優しいよね」 「…そんなんじゃないよ」 「あ、そうだ、さくらさん何が食べたい?」 「んー、やっぱり北海道と言えばラーメン…かな?」 「何だよ、さくらさん、奢ってあげるからさ、ここでしか食べられない物とかでも良いんだよ?」  奢りなんて良いよ、俺の方が年上だろ? って言おうとしてしまい、慌てて口を閉ざした。元樹の方が、俺よりもずっと年上だったんだ。 「じゃぁなー…あ、これこれ、海鮮どんぶりとか…これ、いいかも」 「そう? 実は俺もそう思ってたんだ」 「俺、サーモンといくら丼が良いな」  元樹はメニューを見て、すぐに食べたいものを決めていた。 「うーん、じゃあ、俺は3色海鮮丼。マグロ、甘えび、ホタテの組み合わせで」 「え? さくらさん、それで良いの?」 「だって俺さ、マグロとホタテが大好きでさ、これしか選べないよ」 「そうなんだ? それなら、良いんだけどさ。俺も…そうだなぁ、さくらさんと同じ3色海鮮丼にしようかな。乗せるのは、えっと…」 「でもさ、もっといっぱい乗ってるのあるみたいだぞ?」 「そっか…うーんと、じゃぁ、5色の海鮮丼にしようかな」

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