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side さくら
注文を済ませた後、しばらくの間、元樹が仕事の話をしていた。俺がどんな仕事しているのかも聞かれたけど、話したくなかったので、接客業だということだけ話した。
お客様は大事にしなきゃいけないと思うけど、お客だからって、好き勝手言う奴がいて困ると話したら、元樹も同じように思う時があると言っていた。まぁ、元樹の花屋に来る客と、俺の店に来る客じゃ、程度がかなり違うとは思うけど…。
「うわ、いてっ」
その時、急に、利一の事を思い出してしまい、手首がズキズキと痛んだ。
「さくらさん、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫、傷がちょっとね」
注文したものが、運ばれてきた。お腹がすいていたので、見ただけで嬉しくなった。
「美味い!」
たまに店の常連客が連れて行ってくれる寿司屋とかで、旨いものは食べられるけれど、こういう気取らない雰囲気の中で食べる方が、自分にはあってるように思えた。
「そう? 良かった」
元樹が嬉しそうに目を細めていた。
「ねぇ、さくらさん、味見してみる?」
「あ、サンキュ」
元樹の丼から、カニがのってる所を、ちょっとだけ食べさせてもらった。
「ねぇ、これも美味いよ? 遠慮しないで食べてみてよ」
元樹が、いくらがたっぷり乗ったご飯を、箸にのせ、俺の前に差し出していた。
「あ…っと、ごめん。俺、いくらってあんま好きじゃない」
「ふーん。そうなんだ? 美味いのになぁ」
残念そうな顔をして、元樹が箸を自分の口元に運んだ。
「それがさ、俺が小さい頃、時々、親父がいくらをご飯に乗せて食べてたんだけど、そのオレンジのプチプチしたやつが、美味そうなゼリーに見えてさ、俺も真似して飯に乗せて、食べてみたんだよ。そしたら、それが全然甘くなくいし、生臭いし、美味く感じないし…。それ以来、苦手なんだよね」
ホタテを口に運びながら、そう話すと、元樹が突然笑い出した。
「甘いゼリーをご飯に乗せて食べる…って考えるのも、おかしなくない?」
「今考えりゃそうだけどさ、子供の頃の俺にとっては、すっげー魅力的なお菓子に見えたんだよ。ご飯に乗せても美味しいものなんだろうなーってさ」
俺の反論を聞くと、元樹がますます可笑しそうに笑った。
「やっぱり、さくらさんってすっごく可愛い」
笑顔で見つめられて、めちゃめちゃ恥ずかしくなった。
「バカにすんなよ…まったく」
怜にも話したことのない話を元樹にしてしまったな…って、少し後悔した。
別にそんなこと、気にするような事じゃないのだけど、今の俺は、どんな話でも全部、怜に聞いて欲しかった。
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