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side さくら  食事の後、お土産屋さんとか他の店を見てまわった。外とはあまりにも違う雰囲気で、本当にタイムトリップしてきたような 不思議な気分だった。  俺と元樹は、大きな倉庫を後にして、駐車場に戻って車に乗り込んだ。 「次は何処に行くんだっけ?」  楽しかったけれど、早く帰りたいと思いながら聞いてみた。 「ん? 結構すぐ近くだよ。さくらさんったら、朝、俺が行く所話していたの聞いて無かったんだね?」  元樹が呆れたように聞いた。 「あ…ごめん。全然聞いてなかったです」  怜の事を考えてたので、元樹の声が耳に入ってこなかったんだと思う。 「水族館だよ。デートの定番でしょ?」 「ふーん、そうなんだ?」 「さくらさんだって、デートしたことあるだろ?」 「うーん、俺さ、あんまりマメじゃなかったからなぁ」  少ないデートの記憶を辿ってみても、水族館に行った事は無かったと思う。もしかしたら、俺って普通のデートをした事がなかったのかもしれないな。そんな風に考えていると、元樹が急に声を落として聞いてきた。 「…あのさ、ちょっと、聞いてもいい?」 「ん? 何だよ?」 「さくらさんは、男の人が好きなわけ?」  突然の質問に驚いてしまった。 でも、真面目な顔でそんなこと聞くってことは、俺がそういう奴に見えたのだろう。だから、俺に迫って来たりしたんじゃないだろうか? 「あのな、そんなわけねーし」  ムッとしてそう言い切った俺に、元樹が不思議そうな目を向けていた。 思いっきり否定したけど、説得力のなさに自分でも呆れてしまった。そうだった、怜に惚れてるだの何だの言ってるんだから、男が好きだと思われても仕方ないんだ。 「あのな、怜は特別。俺は、ずっと女が好きだったよ…」 「そっか…」 「彼女がいた頃って、何してたんだろう? そうだなぁ、俺って、ホント出無精だったから、部屋に来てもらってビデオ観てたりとか、行ったとしても、映画とか、食事とか、そのくらいかなー。水族館なんて、子供の頃に 何回か行っただけだと思うよ」 「ふーん」 「久しぶりだから、水族館ってのも良いな。さっきのガラスの所とかもすっげー楽しかったけど」  そう言いながら元樹の横顔を見たら、嬉しそうな笑顔を浮かべていた。  まずい…何だかドキっとしたじゃないか――。

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