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side さくら 「良かった。じゃ、出発ね。次も楽しいと思うよ」  元樹が自信ありげにそう言った。まぁ、楽しければ時間が経つのも早いさ…そう思っているはずなのに――。 「お、おう。よろしく」  そう答えた自分がやけにドキドキしていることに驚いてしまった。俺は元樹にときめいてるのか? そんなのあり得ないじゃん…。  それとも俺って、そんなに簡単な男だったのか??  車でしばらく走ると、目的の水族館に到着した。 水族館に入ると、普通に魚を見たり、イルカやペンギンのショーを見て回った。  久しぶりに来た水族館は、小さい頃に学校とかで行った時よりも、はるかに楽しめる場所だと思った。イルカが可愛いとか、ペンギンに餌をやってみたいとか、そんな他愛の無い話をしながら館内を歩き回っていた。  楽しいのだけど、俺は何だか落ち着かなかった。昼飯を食べる前は、それ程意識していなかったのに、今は隣りを歩いている元樹のことが、妙に気になっていたのだ。 手が軽く触れただけでも、胸の鼓動が早くなる。考えたくないけど、俺は元樹に対して、好意を持ってしまったんじゃないだろうか? 「どうしたの? さくらさん…何だか元気ないよ?」  元樹が心配そうに聞いてきた。その優しさにほだされてしまいそうになる。 「別に…何でもない」  そう言っている自分の話し方が、焦れている昔の彼女のようで嫌だった。 「そっか…あのさ」 「ん? 何」 「あのさ、もしかして、はるかさんのこと、考えてた?」 「別に…違うって。そんな事じゃないってば」  自分がムキになって反論していることに戸惑った。楽しかったのに、何で怜の事を聞くんだよ? って思っている自分は一体どうなってしまったんだ? 俺は怜の事が好きなんじゃなかったのか? 「そうなの?」  俺の事を見て含み笑いをしている元樹が少し気にかかった。でも、その時の俺は、深く考える力を失ってしまっていたようだ。  どうしたんだろう? 少し頭がフラフラするような感じだ。 「さくらさん、ちょっと座ってなよ。コーヒーでも飲んで、少し休もうよ」 「え? あぁ…」  俺は元樹の言葉に従った。 「じゃ、俺、買ってくるから」  元樹がゆっくりと歩き出した。  俺はベンチに腰掛け、頭を振った。昨日の夜良く眠れなかったからだろうか? 頭の中に靄がかかったように、ボンヤリしてきた。 コーヒーを飲んだら、少し目が覚めるかもしれない。 「はい、お待たせ」 「ありがとう。お前、ホントに気が利くよな」  元樹が手渡してくれた、カップ入りのコーヒーを飲んだ。なんだか少し、甘すぎるような気がした。

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