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side さくら  甘いコーヒーを飲みながら、しばらく元樹の学生時代の話を聞いていた。 ゆっくり話す元樹の低い声が、とても心地よく感じた。 「ねぇ、元樹…何だか俺、ものすごく眠くなっちゃったんだ。悪いけど、車で少し寝かしてくれない? ごめんね」  自分が、ものすごく甘えた声を出してるのがわかった。でも、半分意識が薄れている俺には、どうしようもなかった。とにかく眠い…。 「わかったよ、行こう」  俺は元樹に抱きかかえられるようにして、車まで戻った。周りの目なんか気にしていられないような状態だった。手を離されたら、その場で倒れ込んでしまいそうだった。 「ありがとな…」  駐車場に戻ると、俺は元樹の首に手を回し、頬にキスしてから、車に乗り込んだ。  シートを倒して目を瞑る。俺、元樹が好きなのかな?  胸が痛い…どうしてなんだろう?   苦しくて、切ない…今そばに居られないのが辛くて、寂しくて…。  それは誰?  元樹…?   違う。  俺が好きなのは、俺が愛しているのは…誰?  キスをする、優しいキス。 「初めてだよ、こんな気持ち。会いたくてしょうがなかった」  彼が俺に答えて何か言ってくれているけど、聞き取れない…。目がかすんで、彼の顔も良く見えないのに、俺は構わずに気持ちを伝え続けた。 「ずっとずっとそばに居たい」 「そばにいて良いの?」  今度は、遠慮がちな声が、なんとか聞こえてきた。 『そばにいて良いの?』なんて…そんなの、決まってるじゃ ないか。 「あたりまえだろ?」  俺がそう言うと、彼が嬉しそうに微笑んだ。 「良かった」  彼が俯いてから、大きく肩で息をした。 「…ねぇ、抱いて、俺を抱いて」  俺は我慢できなくて、俯いている彼の身体に腕を回し、肩口に顔を押し付けた。 「抱いて良いの?」  当り前じゃないか――。 「抱いて欲しくて、我慢できなくて、何度も1人で抜いたんだからな!」  俺は思いのたけをぶちまけた。 「知ってるよ。もう、我慢しなくて良いから」  彼が優しく俺の背中を撫ぜてくれた。嬉しいよ、もう、1人じゃないんだ。 「怜…愛してる」  そうだ、怜だ…さっきはどうして思い出せなかったんだろう? こんなに愛しい相手だって言うのに。 でも、良かった、思い出せて…愛しい怜。これからは、ずっとそばに居られるよ。 『愛してる』って言ったのに、怜は何も答えないで、俺の身体を離すと、悲しそうに俺のことを見つめていた。 「どうしたんだよ? 怜…」  靄のかかった頭の中が、だんだんとクリアーになって、目の前に居る人物の顔も、ハッキリと認識できた。 「どうして…?」

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