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side さくら
「その彼女が怜のことを忘れられないでいたから、怜のこと恨んでるわけ?」
「恨んでる…? 良くわからない。結局、その彼女とはそれで終わり。でもさ、俺、吸血鬼だから、同じ人とずっと付き合ってる訳にはいかないから、ちょうど良かったのかもね…」
ベッドに手を付き、俯いたままで元樹が呟いた。シーツの上に涙がポタリと落ちた。
「あいつより先に、さくらさんを抱いてしまいたかった…」
「…あのな、そんな事して、何になるんだよ? 身体を自分のものにしたって、俺の心はどうにも出来ないだろ?」
俺がそう言うと、元樹が鼻をすすった。
「だから、父さんの薬…つかったんだ。あいつに偉そうな事いったけど、さくらさんに好きになってもらえる自信なくって…。さくらさんが、あいつの事を忘れてしまうように」
「…元樹…」
「でも、ダメだった…みんな、あいつの事が忘れられないんだ…」
「元樹、そんな風に考えるのはやめとけよ」
俺は、元樹の身体をギュっと抱きしめてやり、クシャクシャっと元樹の頭を撫ぜた。大きな身体の元樹が、小さな子供のように思えた。
腕の中で泣いている元樹が、とても可哀想に思え、俺に出来ることは無いだろうかと考えてみた。
どうせ俺はキレイな身体ではないんだし、元樹の気がすむのなら、抱かれてやってもいいじゃないか…単純でバカな俺はそう思った。
怜を裏切るような事になるけれど――。でも、どうしようも出来ない運命を悲観している元樹を、少しでも救ってやりたいと思った。
「なぁ、そんなに怜より先に俺のこと抱きたかったら、抱いても良いぜ?」
俺がそう言うと、元樹が驚いたような顔をして俺のことを見つめた。
「…さくらさん、何言ってるのさ?」
「…なんかさ、自分でもよくわかんないけど、俺、お前のこと嫌いじゃないし、お前の気が少しでも晴れるって言うなら、抱かれても良いよ。ヤバイことだからさっきは言えなかったんだけど、こういう客商売もやった事あるんだ」
元樹の涙を指でぬぐいながらそう言うと、元樹の体がピクッと強張った。
「ダメだよ…さくらさん。そんなこと」
元樹が急に弱気になってきた。
「気にするなよ。俺の身体なんて、商売道具の1つなんだから…妊娠するわけでもないしね。それに、結構良いらしいぜ、俺の身体って」
半分挑発するように言った。金を貰って抱かれる時のように…。そういう風に言う事で、この行為には愛が込められてないんだって、自分に言い聞かせていた。
「ごめん。本当にごめん…さくらさんを利用するようなことして。俺、ダメだよ。さくらさんを抱けない。これ以上自分を嫌いになりたくない。俺、今、彼女がいるんだ。彼女を愛してる…彼女を裏切りたくない」
抱かれてやるって言ったら、急に現実を思い出したのか、元樹が慌ててそう言った。
俺はその言葉に、ホッとして身体の力が抜けた。
元樹に抱かれても構わないって思ったけど、やっぱり俺が抱いて欲しいって思うのは、怜だけなんだ。
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