142 / 169
142
side さくら
「そっか。良かった…」
抱きしめていた腕を解き、元樹から身体を離してから、元樹の肩をポンポンと叩いた。
「あのな、俺、吸血鬼じゃないから、お前の気持ちわかってやれない部分があるけど、でもさ、色々大変なんだな…とは思うよ。だけどな、怜を恨むのは違うと思うぞ。怜も辛かったみたいだよ、愛する人と一緒に生きられないってことが」
「そう…」
「俺はね、たとえ怜より先に死んでしまうとしても、怜と一緒に過ごしたいって思ってる。…怜が、ジジイになった俺の事、嫌にならなければって話なんだけどね」
言葉にしてみると、少し不安だった。だけど今思ってる、自分の本当の気持ちを、元樹に話してやった。
「お前にも、そういう相手が出来るかもよ? 焦らないで、本当の相手を探してみろよ。今の彼女かもしれないし」
「そうだよね…」
元樹がもう一度「ごめん」って言ってから、恥ずかしそうに俯いた。
その後、部屋を出て車に乗り込み、ホテルを後にした。街はいつの間にか薄暗くなっていた。
「家に戻るね。今日は…ホントにありがとう」
「あぁ、こちらこそ」
「雨宮さん…起きてるかもね」
「お前、怜に謝れよ。怜が悪いわけじゃないんだからな」
「わかってる…」
「彼女…大事にしてやれよ。本当に好きならさ、どうやったらずっと離れないで居られるか、考えてみたら? 俺と怜も、これから話し合わなきゃならないんだ。ずっと一緒に居られるようにって」
「そうだね。さくらさんに話したら、すっきりしたよ」
「そっか」
「それから…ちょっとビビッたよ俺」
「どうしてさ?」
「だってさ、俺、男の人と経験無いからさ…。雨宮さんより先に、さくらさんを抱いてやるんだ!って思ってたけど、さくらさんに、抱いてもいいよって言われたら、急にどうやって抱いたら良いんだろ? とか、さくらさんは男と経験あるから、俺が下手なのバレちゃう…とかって思ったんだ」
元樹が正直に告白してくれた。何だか…勢いだけで攻めてきたって感じだな――。
「お前…なぁ」
「雨宮さんより先にやってやる! って思いばかりが先走ってたからさ…」
「まったく…仕方ない奴だな。先にやったとしても、何が変わるんだよ…俺の気持ちは変わらないのに」
俺がそう言うと、元樹が耳まで真っ赤になってしまった。
「そうだね。今思うと、恥ずかしいよ。俺、どうしてたんだろう? って感じ」
「良かったよ…。怜が言う通り、お前って根はいい奴なんだな」
「雨宮さんが言ってたの?」
「あぁ。元樹は本当は優しい奴なんだって言ってたよ」
「そっか…」
元樹が何かを考えているようだった。
ともだちにシェアしよう!