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side 怜  玄関が閉まる音が聞こえました。その後、さくちゃんとゆかりさんが話しながら廊下を歩いてきたのが分かりました。  さくちゃん達が帰ってきたのですね。 「お帰りなさい、さくらちゃん…」 「怜!」  私の顔を見た途端、さくらちゃんが目を輝かせ、私に向かってかけ出しました。そしてそのままの勢いで私に抱きついてきたので、私は危うくひっくり返りそうでした。 「怜、会いたかった」  そう言った後、さくらちゃんの唇が、私の唇に重なりました。 先生も、ゆかりさんもいらしたので、私はちょっと困ってしまいましたが、さくらちゃんの気持ちに応えたくて、身体をギュッと抱きしめると、啄ばむようにキスを返しました。 「会いたかったですよ、さくらちゃん」 「嬉しい…」 「あ、あの、さくらちゃん、こちらが水沼先生です」  二人の世界に浸っているわけにいかないので、私はそう言って、さくちゃんに水沼先生を紹介しました。 「あ…そうだ」  さくらちゃんが慌てて私の身体から離れ、恥ずかしそうに頭をかいてから、水沼先生に挨拶をしはじめました。 「初めまして、川原です。あの、どうぞよろしくお願いします。…すみません、突然こんな…」 「あぁ、気にしないで。どうも、水沼です。ずいぶん待たせてしまったようで、悪かったね」 「いえ…すみません、ご旅行中に…」  さくちゃんがそう言って頭を下げました。 「あなた、さくらさんは、はるかさんのとっても大切な人よ。もう、さっきから何度も話を聞いたわね」  水沼先生の帰宅後に起こされた私は、今回のいきさつについて、水沼先生に何度も質問をされていたのでした。 『どうして何度も血を吸う事になってしまったのか?』とか、『川原さんとは、どういう関係なのか?』とか…ついには『さくらさんの何処が気に入ったんだ?』なんて話にまでなっていたのでした。  純粋に私達のこれからの事について、気にかけてくれているんだとは思うのですが…。 「よろしくな、さくらさん。いや、ホントに可愛らしい方だね。はるかくんや元樹が夢中になるわけだ」  水沼先生がそう言って楽しそうに笑いました。 「いえ、そんな…」 「で、かあさん、元樹はどうしたんだ?」 「何だか、友達に呼び出されたとか言ってました。明日は、ちゃんとあなたに会うからって。もう、あなたと元樹は同じようにマイペースよねぇ」 「まったくだ…仕方の無い奴だよな」  水沼先生はそう言って大笑いしていました。ですが、ゆかりさんは先生の横で、困ったような顔をしていました。 ゆかりさんは先生と元樹君の気まぐれに振り回されて、ご苦労されているようですね。  話をしている間、さくらちゃんは私にピッタリ寄り添って、手を握り締めていました。さくらちゃんの体温をすぐ横に感じられて、私はとても幸せな気持ちでした。  もうすぐ2人で一緒に帰れます…。

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