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side さくら 「それで、旅の帰りにアイルランドに寄って来たんだけど、あそこでは、はるかくんと同じようなタイプの例が、 以前からあったようで、そこで昔から使ってるという薬を分けてもらえたんだよ」  顎髭をいじりながら水沼先生がそう話してくれた。日に焼けて髭面の水沼先生は、お医者さんと言うよりも、映画に出てくる冒険家のイメージに近いと思った。  俺はとても不思議な気分だ。怜に出会う前は吸血鬼なんて、物語の中にだけ存在するものだと思っていたのに、どうやら、世界中のあちこちに普通に存在しているみたいだ。 「薬が見つかって、本当に良かったです…ご足労おかけしました…」  怜が水沼先生に深々とお辞儀をした。俺も慌てて怜の隣で頭を下げた。 「気にしなくて良いよ。私も久しぶりに新しい知識が増えてたことが嬉しいんだ」  水沼先生が瞳をきらきらさせていたので、きっと本心なんだろうなと思った。すごい人だな――吸血鬼だけど…。 「薬を飲むだけで、すぐに治るんですか?」  怜がそう聞くと、水沼先生はしばらく考えてから口を開いた。 「そうだね…まぁ…人間がその薬を飲んだっていうデータは数件しかなかったんだけど、その時は、2日位眠りつづけただけで、その後は体調も良くなって普通の生活に戻れたようだ」 「そうですか」  俺はホッとして手首を触った。つけっぱなしのこの薬とも、お別れできるんだ。  でも…綺麗だから、後で写真を撮っておこうかな――。 「それから、はるかくんには、ちょっと言いにくいんだが」  水沼先生がそう言うと、水沼先生と怜の間に妙な緊張が走った。 言いにくいって…怜は元の身体に戻る事が出来ないのだろうか?  いや、そんなはずが無い…。 「何でしょうか」  怜が落ち着いた声で聞いた。 「同じ薬で基本的な症状は治るらしいんだが、完治しない可能性があるんだ」   「完治しないって…」  怜が何か言うより先に俺が口をはさんだ。 「やはり、2日くらい眠り続けるのはさくらさんと同じなんだ。ただ、その後、君の身体には変化がおきることがあるらしい」  それを聞いた怜は、表情を動かさずに天井を見上げた。 「どのような変化なんでしょうか…」  沈黙の後、怜が意を決したようにそう聞くと、先生が一度ゆかりさんの顔を見て、それから怜の方に向き直った。 「眠りから覚めて半年の間に、体が血を求めなかったら……」 「求めなかったら?」 「血を欲しなかったら、吸血鬼としての運命は終わりだ」 「それは、どういう事ですか?」  先生の言葉を聞いて、考え込んでしまった怜の代わりに、俺が尋ねた。吸血鬼としての運命が終わるって? 「…永遠に思えた運命とはお別れだ。少しずつ老いて行き、やがて死を迎える」

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