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side さくら  その場にいた全員が、しばらく何も言葉を発しなかった。その時、先生が俺と怜を交互に見つめてから、もう一度口をひらいた。 「実は、はるかくんの場合、他にも方法があるんだ…」 「…ね、あなた、それはちょっと…」  ゆかりさんが何かを感じたらしく、慌ててそう言って話を止めようとした。 「薬は使わないんだが…」  方法があったのなら、何でそれを早く教えてくれなかったんだ? ゆかりさんだって知ってたみたいじゃないか。 「どういう方法でしょうか?」  怜が静かに聞いた。 「あなた、それは無理でしょ?」  止めようとしている、ゆかりさんの言葉を無視して、先生が話を続けた。 「これは、はるかくんが元の身体に戻りたいと真剣に思っているかどうかで、変ってくると思うんだが」 「…」 「元の吸血鬼に戻りたければ、この症状になった原因の血を、一定期間飲みつづける。期間はわからない。数ヶ月かもしれないし、数年かもしれない。そうしているうちに、君の血に抗体が出来て、老化を進める症状が止まるんだ。君の体が元に戻ると、彼の血を求める事はなくなるだろう」  俺はそれが何を意味する事なのか、良くわからずにいた。 「俺、怜が吸血鬼で居たいっていうなら、俺の血をあげるよ。ずっと側に居られるんだし」 「さくらちゃん…でも、それでは、さくらちゃんが薬を飲んで治ったとしても、また同じ事になりますよ?…」  何だよ、それなら、先生が持って来てくれた薬を、また飲めば良いんじゃないか。 「俺がその薬を飲みつづければ良いと思わない? 怜に血を吸われるたびに、薬を飲む。そうすれば…」  そうしたら、怜はもとの吸血鬼に戻れるよ…。  本当はずっと側に居たいけど、怜の運命を変えてまでも、俺の側に居て欲しい…とは言えなかった。悲しいけど、年老いた俺は怜より先に死を迎える。それでも、一緒にいられるならそれで良いんだ…。 「残念だけど、薬は常用出来ないんだよ」  先生がそう言って、俺の方を見た。 「はるかくんは元の身体に戻れるだろう。でも、血を吸われた方の人間は、怪我をすれば治らなくなるし、老化はどんどん早くなる。精神的にも色んな症状が出るんだろう」  先生の言葉を聞いている間、怜がどんな表情をしているのかが不安で、俺は俯いて目を閉じた。  怜の事だから、俺と一緒に居たいって思ってくれてるはず…だから、例え吸血鬼では無くなるとしても、薬で治すって言ってくれる……。   だけど… 「先生、さくらちゃんの血を吸いつづければ、私は確実に元の体に戻れるんですね?」  怜が抑揚のない声で、呟くようにそう言った。 「そうだ」  怜の質問に水沼先生が即答した。 「そうですか……」  俺は怜と先生のやり取りにドキドキして、手の先が一瞬のうちに冷たくなった。  恐い…だけど、勇気を振り絞って、顔を上げて怜の顔を見た。 怜は遠くを見つめるような目をしていた。もしかして、正気を失ってる怜なの?  しばらく何も言わない怜を心配して、ゆかりさんが声を掛けた。怜の視線の先には何が見えていたんだろう? 「はるかさん、大丈夫? どうしたの…」  名前を呼ばれた怜は、ビックリしたような顔をして、頭を振った。それから、俺の方を見ると、優しい笑顔を向けてくれた。 「薬を飲むと、私が人間になる可能性があるという事なんですか?」  怜が口を開き、静かな声でそう聞いた。  人間に…? 「そうだね…。でも、正確に言うと、人間とは違うかな。人間よりは少しは寿命が長いかも知れない。だが、私達のように長くは生きられないだろうという話だ」 「そうですか」

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