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side 怜
「薬を飲むと、私が人間になる可能性があるという事なんですか?」
私がそう言うと、さくらちゃんの表情がパッと明るくなるのがわかりました。私が吸血鬼で無くなれば、さくらちゃんと共に年をとる事が出来るかもしれないのです。
もしかするとそれが、私達にとっては、一番幸せなのかもしれません。でも、私の心の中に、ほんの少し黒い闇がありました。
それは、少し前までは、いらないと思っていた、いつ終わるかわからない命に対する執着なのでしょうか? それとも、 ハッキリとした終着点が出来てしまうことへの、恐怖心なのでしょうか…。
さくらちゃんの血を吸い続ければ、確実に元の私に戻れるのです…。
でも、それでは、さくらちゃんと共に過ごす事が困難になってしまいます…。
「正確に言うと、人間とは違うかな。人間よりは少しは寿命が長いかも知れない。だが、 私達のように長くは生きられないだろうという話だ」
薬でも元の身体に戻る可能性があるのです。それに、さくらちゃんとも一緒に過ごせるのですから…。
「わかりました」
私にとって、薬を飲む以外に方法はありません。さくらちゃんの血への憧れは消えませんが、一緒に生きるとなれば、そうするしか無いでしょう。
「どうかな? はるかくん」
水沼先生が聞いてきました。私の答えはもう決まっています。
「もちろん、薬を頂きます。さくらちゃんを失いたくありませんから」
不安そうな顔をしていたさくらちゃんが、私の言葉を聞くとホッとした顔で私の事を見つめ、握っていた手に力を込めました。
「怜!」
「じゃあ、すぐにでも、薬を…」
水沼先生が立ち上がろうとしました。
「あ、先生、その薬って、すぐに眠くなるんですか?」
さくらちゃんが急に思いついたように尋ねました。
「人間の場合は良くわからないのだけど、我々の場合だと、1時間ぐらいそのまま起きてるそうだよ」
「そっか…すぐに眠れなかったら、その間に何か食べておこうかな…」
「さくらさん、今帰ったばかりだし、お腹すいているんじゃない? 食事してから、薬を飲むようにしたら?」
「でも、俺、少しでも早く元に戻りたいから…薬飲みます」
そう言って、さくらちゃんが私の事を見つめました。
「わかったわ。すぐに薬を飲むのね。じゃあ、急いで簡単な食事を用意するわ。はるかさんも良かったら食べてちょうだいね」
ゆかりさんがそう言って台所に向いました。
「ありがとうございます…」
「さて、薬を取ってくるか」
そう言って、先生は、ご自分の部屋に戻られました。
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