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side 怜
しばらくして、先生の持ってきたものは、ワインのボトルに良く似た形の瓶でした。
「グラスに半分ぐらいで良いと言ってたな」
そう呟きながら、先生が食器棚からワイングラスを2つ出して、テーブルの上に置きました。
瓶から注がれたのは、ワインのように透明感のある、さらっとした液体ではなく、濃い紫色のドロドロした形状のものでした。
「うわぁ…すごい色だね」
さくらちゃんがグラスを覗き込んで「うわっ」と驚いていました。
「そうですね…香りも、かなりキツイですね…」
色から想像した、葡萄のような香りではなく、柑橘系のかなり強めな香りでした。
「でも、これからの俺達のためだ…」
「そうですね」
「さぁ、飲んで良いよ。まぁ、美味しくないと思うけれど、ちゃんと全部飲むようにね。あ、ゆかり、2人に水を持ってきてあげて」
先生がそう言うと、ゆかりさんが急いで水を持ってきました。
「はい…ここに置いておきますね」
「ありがとう」
「それじゃ、飲もう。怜」
さくらちゃんがグラスを持ち上げて、「乾杯しよう」と言いました。
グラスをぶつけると、ドロドロの液体の入ったグラスは、鈍い音を立てました。
私は鼻をつまんで、一気に飲み干そうと思いましたが、あまりの酸っぱさにムセそうになり、数回に分けてドロドロの薬を飲み干しました。
薬を飲み終わるとすぐに水の入ったコップを手に取りました。 一口水を飲んでホッとしてから、さくらちゃんを見てみると、さくらちゃんは口の周りに紫の薬をつけたまま水をゴクゴクと飲んでいます。
「さくらちゃん、口を拭いて下さい」
ティッシュペーパーを渡しながら、思わず笑ってしまいました。小さな子供が、葡萄のアイスでも食べたような感じです。
「あ、サンキュ」
私の差し出したティッシュを受け取ると、さくらちゃんが口の周りをキュッキュッと拭きました。
「怜もついてるよ」
私がもう一度水を飲んでいると、さくらちゃんがそう言って笑いました。
「なーんか、怜らしくないよね」
さくらちゃんは、水を飲み終わった私に顔を近づけると、口元をペロンと舐めました。
「わ、すっぱ?!」
何だかとても可笑しくて、2人で顔を見合わせて笑ってしまいました。
久しぶりに、心から笑えたような気がします。
とても幸せだと思いました。
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