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side さくら 「おやおや…本当に仲が良いねぇ」  水沼先生の声が聞こえてきて、自分の世界に入っていた俺は急に恥ずかしくなった…。 そうだ…すぐそばに先生も居るし、台所にはゆかりさんも居るんだ――。 「向こうに帰ったら、どうするんだい? 一緒に暮らすのかい」  先生が俺達の顔を交互に見ながら聞いた。 「私は、さくらちゃんの傍に、ずっと居させてもらおうと思っています」  迷わず怜がそう言ってくれた。俺はその言葉がとても嬉しかった。 「もし、お前が吸血鬼に戻っても、一緒に暮らそうな。俺の血は上げられないけど…あの…他の女の所に行ってしまわないなら、血をもらうだけなら女に血をもらいに行っても良いから。俺、我慢するから…」  俺と怜の言葉を聞いて、先生がニッコリと笑った。 「どうやら、2人の気持ちは、変わらなかったみたいだな。良かった良かった」 「あら、良かったわね。さくらさん、はるかさん」  ゆかりさんが台所から顔を覗かせて、嬉しそうに笑っていた。 「え? だって、まだ、今、薬飲んだばかりですよ?」  そんなにすぐ気持ちの変化があるのか? 「あぁ、体調の方は、眠っている間に回復していくそうだが、メンタル面は、この薬の猛烈な酸味のせいなのか、すぐに変化が起きるそうなんだ。いくつかの症例と投薬後の経過が書いてある文献を読んだんだが、薬を飲んだ直後に気持ちの変化があって、大喧嘩始めた患者が居たそうだよ」  先生の話を聞いて、怜と2人で顔を見合わせ、お互いにホッと安堵の溜息をついた。 本当は抱き合って、キスでもしたかったけど、先生たちの手前、両手を握り合う程度で我慢した。 「はるかくんは、1時間後には、ベッドに入っているようにな。さくらさんは、食事が終わったら部屋に行っていた方が良いよ。眠くないと思っていても、あっという間に眠ってしまうようだから」  そう言い終わると、先生は近所の家に、旅行先のお土産を配るからと言って出て行ってしまった。 「…ごめんなさいね。ホントにあの人、落ち着きが無くって、用事がすむとすぐに何処かに行ってしまうんだから…」  ゆかりさんが笑いながらそう言った。 「もうすぐ食事の用意出来るから、ちょと待っててね」  台所に戻ったゆかりさんがカウンターから顔をのぞかせながらそう言った。 「さて、これから眠くなるまで、どうしようかなぁ…食事してから、シャワー浴びようかな?」 「先にシャワー浴びてきた方が良いかもしれないわね」  台所からゆかりさんの声が聞こえた。 そうだよ、出かけてきたんだし、寝る前にはやっぱり身体を洗っておくべきだよな。 「じゃあ、急いで入ってきます」 「はるかさん、ついて行ってあげて。さくらさんはいつ眠くなるかわからないから」 「はい」 「でも、一緒にシャワー浴びたらダメよー」  ゆかりさんの声が楽しそうで、俺は恥ずかしくなった。親みたいな感じの人から、そういうフリをされると困ってしまう――。 「一緒に裸と思っている俺だった。になったら、そのままじゃすまないと思うから」  ゆかりさんが笑いながらそう続けたので、珍しく怜が慌てていた。  そんな怜も新鮮で良いかも知れない。

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