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side さくら  俺は急いで部屋に着替えを取りに行ってから、怜が扉の前で待つ浴室に向かった。 「服を脱ぐから、後ろ向いてて」  怜にそう言って服を脱ぐと、俺は浴室の中に入った。   身体を洗いながら今日のことを考えていた。  そう言えば、もう遠い昔の出来事のように思えてしまうけれど、今日は元樹とドライブに行ったんだっけ…。  そうだ…怜に、元樹が言ってたことを話しておかないと…いや、でも、元樹が自分で怜に話せるようになるまで、俺は黙っていたほうが良いかもしれない。  そんな風にいろいろ考えていると、浴室の扉をノックする音が聞こえた。 「さくらちゃん、まだ起きてますか?」  髪の毛をシャンプーで洗っていると、ドア越しに怜の声が聞こえてきた。 「大丈夫だよ、全然眠くないし。あーあ、早く怜と一緒に風呂に入りたいなー」  俺がそう答えたら、怜がクスクス笑った。 「帰ったら、一緒に入りましょうね。でも…さくらちゃんは、『風呂は狭いから、やっぱ1人で入る…』って言いそうですね」  怜が俺のしゃべり方を真似しながら言った。俺の事をよく知ってるな――と思ったけれど、つい反抗したくなってしまう。 「そんなことないよ、いつも一緒に入るんだ。で、お前の身体は俺が洗う、俺の身体は、怜、お前が…あ、わっ」  あらら、ヤバイヤバイ。考えただけで、下半身が反応してしまった…。 「だいじょうぶですか? さくらちゃん…どうかしたんですか?」  怜が風呂のドアに顔を近づけながら、心配そうに聞いてきた。 「あ、うん、大丈夫。しっかり起きてる…メチャメチャ、元気、元気だから」  どこがって事は、今は言わないでおこう。 「あー、さっぱりした」  興奮を鎮めて、体を洗い終わると風呂を出た。 「怜は? 風呂どうする?」  背中を向けたまま体を拭きながら、怜に聞いた。 「私はお昼に起きて、しばらくしてから入りましたし…。入るとしても、食事の後でも大丈夫そうです。まだ、1時間近くありますから」 「そっか。おおよそでも眠くなるまでの時間がわかってるのって良いよなぁ。俺なんて、いつ眠くなるかわからないんだもんな」 「まぁ、そうですけど…」  シャワーと食事を済ませてから薬を飲めば良かったですよね? と怜が言いそうな気がした。確かにそうだよな――。自分のせっかちさ加減に少々嫌気がさした瞬間だった。  居間に戻ると、台所からゴマ油の香りがしてきた。香りを嗅いだだけで腹が減ってきた。 「お風呂上がったのね。さ、食事よ」  ゆかりさんがテーブルに料理を運んでくれた。 「わぁ、美味そう…」  テーブルには、お粥の入ったどんぶりと、トッピングするものが色々並べてあった。 「どうぞ、召し上がれ」 「本格的ですね?」  怜がそう言うと、ゆかりさんが「そうでもないのよー」と笑った。 「時間が無かったから、手抜きなのよ。でも、すぐに眠ってしまっても良いように、消化しやすいものにしておいたわ」 「ありがとうございます。頂きます!」  目の前にある、どんぶりの上に具を乗せる為に箸を掴んだ。 「あ…」 「さくらちゃん!」  怜が俺を支えてくれたのがわかった。箸は俺の手からスッと床に落ち、コロコロと転がって行った。

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