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side 怜
「はるかくん、さくらさん、やっと起きたんだって?」
その時、水沼先生がゆかりさんと一緒にキッチンにやってきました。私は慌ててさくらちゃんに回していた腕をはなし、さくらちゃんの隣に並びました。
「あら? さくらさんどうしたの?」
先生の後ろから来たゆかりさんが、心配してさくらちゃんに駆け寄りました。
「いえ、何も…大丈夫なんです…。怜が嬉しい事言ってくれたのに、俺涙が出ちゃって。何だか俺、涙もろいままみたいで――」
さくらちゃんがそう言うと、先生がゆかりさんと場所を交代しました。
先生は持ってきていた聴診器や見慣れない診察の道具で、さくらちゃんの様子を診はじめました。
「はるかくん、さくらさん、ちょっと話があるんだ」
しばらくの間、さくらちゃんの診察をしていた先生は、聴診器を外しながら私とさくちゃんの名前を呼びました。
「はい…あの、さくらちゃんはどこか悪いのでしょうか?」
私は心配になって聞いてみました。感情のコントロールが出来ないままなのが気になっていました。
「いや、診た感じでは特に何もないようだから、大丈夫だと思うよ。とても感動して出た涙のようだから」
先生は見慣れない検査器具で涙の成分も調べたようです。
「君たちがなかなか目覚めなかったから、同じような症例がないか、他の医療現場にも問い合わせてもらったんだ」
先生が私にも座るように促してから、話始めました。
「何か問題がありそうでしたか…?」
他の症状が出てしまったのではないかと思い、私は不安な気持ちになっていました。
「いやーそれがなぁ、同じような例が無かったんだよ。人によって色んな反応が出たみたいだったけどね。まぁ、結局はどのパターンも問題なかったそうなので、君たちも問題ないだろう。ただ、多少不安があるから、可能だったら後1ヶ月くらいこちらに居てはどうだい? 私も薬をわけてもらった所に結果を報告しておきたいと思うんだ」
水沼先生がそう言われました。
「そうですか…。私は…それでも良いのですが――」
さくらちゃんは、お店のこともあると思うので…そう言いながら隣のさくらちゃんの様子を見ると――。
「うん、俺も大丈夫だよ。店のママはゆっくりしてきて良いからって言ってたんだ。こんなにのんびり怜と居られる時間って、これから先、なかなか取れないかも知れないから、来たついでに、羽根を伸ばして行っても良いかなって思うんだ。今後の事もいろいろ話し合っておきたいし」
さくらちゃんがウキウキしたようにそう言いました。
さくらちゃんがそう言うなら、私も一緒にゆっくりと過ごしたいです――。
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