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161 rei & saku
side 怜
「では、後1ケ月ほどお世話になろうかと思いますが…。先生のお宅は大丈夫なんでしょうか? 私たちがそんなに長く居ても…」
そう聞くと、ゆかりさんが嬉しそうな顔をしました。
「私は大歓迎よ。下宿やっていた頃に戻ったみたいで、楽しみだわ。きっと元樹も喜ぶと思うの」
ゆかりさんの言葉を聞いて、水沼先生がうんと頷きました。
「元樹はずっとはるかくんに憧れていたからな」
「ホントだったんだ…」
さくらちゃんがそう呟くと、水沼先生はしばらく黙っていました。
「まぁ…はるかくんが居なくなってから、色々と悩むことが多かったみたいだけどな」
先生がそう言うと、ゆかりさんが驚いたような顔をしました。
「あなたは知っていたんですか? 元樹がはるかさんのこと話さなくなった理由…その頃もほとんど家に居なかったのに…」
「まぁ…大体ね。時々メールをくれたんだよ。我々吸血鬼がみんな通って来る道みたいな感じだからね。きっとそのうち、元樹から何か話があるだろうから…よろしく頼むよ、はるかくん」
「はい。わかりました…」
先生の言葉で、なんとなく元樹君の反抗的な態度の理由がわかったような気がしました。
side さくら
水沼先生のすすめで、俺と怜はもう1ケ月、先生の家にお世話になる事になった。
この先、今の仕事を続けるにしろ、怜と店をやるにしろ、怜と一緒にのんびり過ごす時間があるかどうかわからない。だから、今回の事はきっと良い機会なんだと思うのだ。
ある意味、新婚旅行的なつもりで過ごそうかな、なんて俺はのんきな考えでいた。
俺達が眠りから覚めたその日の昼過ぎ、デートに行っていた元樹が急に帰ってくるなり怜を部屋に呼んで、2人で色々話し込んでいたようだ。俺は2人の邪魔をしないようにと、居間でパッチワークに勤しんでいた。
しばらくして、2階から降りてきた怜と元樹は、笑顔で話していたので、元樹の気持の問題もちゃんと解決出来たんだろう。何だか肩の荷がおりたような、そんな気がした。
「じゃあ、また出かけて来るから」
元樹はそう言って、そのまま出かけてしまった。
「さくらちゃん」
作業テーブルでパッチワークをしていた俺の所に怜がやって来た。
「おう、怜。話終わったんだね」
「はい、色んな誤解が解けたようで良かったです。元樹君の気持もよくわかりますし…」
そう言いながら怜が俺の隣に座った。
「そっか。良かった」
俺がそう言うと、怜が急に俺の手をギュッと握った。何だかちょっと様子が変な気がするんだけど――。
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